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社会問題

幸せにつながる性知識を身につけよう!

性を知ることは「健康」と「人権」を学ぶこと

村瀬幸浩(性教育研究者)

(構成・文/畠山理仁)

 2016年、悪質な集団性的暴行事件が立て続けに報道されました。「デートDV」という言葉も、しきりに耳にするようになっています。
 支配的、暴力的な性愛コミュニケーションではなく、目の前の相手と対等で、幸福な関係を築くために、何が必要とされているのでしょう。
 性教育の研究者、村瀬幸浩さんにお話をうかがっていくうち、自分の身体のこと、異性の身体のこと、性の基礎知識を知らなすぎる日本人の実態や、性を恥ずべきものとして扱う性教育の現状が見えてきました。

絶望的な日本人の性知識

 あなたは「正しい性知識」を持っている自信があるでしょうか。「ある」と答えられる人は、おそらく大人でもそれほど多くはないでしょう。
 それも無理はありません。今の日本では、「正しい性知識」について学ぶ機会が極めて限られているからです。学校で行われている性教育も十分ではなく、大人になってからも、自ら求めなければ「正しい性知識」を身につけることはできません。私はこれを絶望的な状況だと思っています。
 日本の性教育の現状を考える時、最も信頼できるデータの一つに「青少年の性行動全国調査」があります。これは日本性教育協会が1970年代からほぼ6年に一度、全国の中学生・高校生・大学生の男女を対象に行っているもので、2011年までに全7回の調査が実施されています。
 その中に、とても興味深い六つの質問があります。これは高校生・大学生に対して、それぞれの質問が「正しい」か「間違っている」かを問うものです。さて、あなたはいくつ正答できるでしょうか。
 11年の調査では、この6問に対し、全問正解した高校生はわずか2%に過ぎませんでした。1問も正解していない者は16%にも上ります。高校生男子の場合、8割以上が「排卵と月経の関係」すら理解していません(高校生女子の正答率は41%)。これが日本における青少年の「性知識」の現状なのです。

性知識の情報源は偏っている

 それでは青少年は性知識をどこから得ているのでしょう。「青少年の性行動全国調査」では、「性交(セックス)について」「避妊について」の知識や情報を「どこから得ているか」についての設問もあります。
 このグラフを見てもわかるように、性知識を得る情報源として高校生男子で最も多かったのは「友人や先輩」で65.6%。「インターネット」44.2%、「学校(先生、授業や教科書)」26.1%、「マンガ/コミックス」17.5%、「アダルトビデオ」14.9%と続きます。大学生女子では「友人や先輩」56.5%、「インターネット」37.6%、「付き合っている人」30.8%、「マンガ/コミックス」28.9%、「一般雑誌」28.3%、「学校」25.7%となっています。
 性に関する情報を「避妊情報」と「性交情報」に分けて考えると、高校生になれば、避妊情報を学校の保健体育の授業で学んでいることがわかります。
 一方で、性交(セックス)についての情報は、「友人や先輩」からが一番多く、大学生女子の場合は、「付き合っている人」からの情報も上位に入っています。しかし、「友人や先輩」「付き合っている人」の多くも、実際には「インターネット」から情報を得ています。基本的に性交に関する若者の知識は「インターネット」からの情報に牛耳られている。これは大きな問題だと私は考えています。
 子どもの意識と大人の意識には大きなギャップがあります。統計で見ると、小学校段階で性交について知っている子どもは3割、中学校では過半数です。しかし、学校教育が性の問題を取り上げないために、子どもたちは世間に氾濫する性情報から大きな影響を受けています。

あふれ返る「フィクションの性」

 アダルトビデオやインターネットに氾濫している「性の情報」は、ほとんどが「フィクション」です。空想や妄想から作られているものであり、多くは商品として売買され、消費されることが目的です。その中には、相手との関係性の中でやさしく性愛を紡ぎ出すというイメージはありません。性行為だけが誇張されて、人間と人間との関係性が矮小化されています。そんな情報にばかり浸かっていたのでは、性愛において、まずコミュニケーションや、相手の人格・人権を尊重するという意識が根付くのは難しいと言えるでしょう。
 また、こうした「フィクションの性」は、ともすれば自分のボディイメージへのコンプレックスも生んでいます。女の子は「胸がない」「太っている」「毛深い」、男の子は「痩せ過ぎている」「筋肉がない」「ペニスが小さい」などの悩みをそれぞれに抱えています。「胸の大きさが女性らしさを表す」「巨根は男らしさのシンボル」など、「フィクションの性」に触れることによって作りあげられたイメージが原因で、そう思ってしまうのです。
 私は子どもたちから身体についての相談を受けると、「人との付き合いは、おしゃべりをしたり、安心感を得たり、話題が合ったりすることが大切だ。身体のことをコンプレックスに思うことはない」と説明しています。そうすると、子どもたちは「安心しました」と納得してくれます。しかし、今の教育現場では性交を扱わないために、子どもたちに対しての、性に関するやさしくてあたたかいポジティブなメッセージは全くといっていいほどありません。
 アダルトコンテンツが「大人向け」であるのには、理由があります。大人は現実とフィクションを区別して見ることができますが、年齢が若ければ若いほど、現実かフィクション化の区別をつけられないからです。しかし、今の日本では、「フィクションの性」が「正しい性の知識」を凌駕し、しかも早い段階から否応なしにインプットされるようになってしまっています。そんな世界に身を置かなければならない日本の子ども、若者は、乏しい性教育の犠牲者だといえるでしょう。

学校では何が教えられるのか

 日本の学校における性教育は、文部科学省から「こうしなさい」という明確な指針が提示されているわけではありません。学校の現場では「性教育」という言葉を使っていますが、学習指導要領には出てきません。
 月経や妊娠については学びます。しかし、あくまでも「生殖としての性」「産むための性」だけであり、相手との関係性を作っていくことの大切さや、快楽としての性は全く扱われません。
 日本の性教育の大きな問題は、受精は教えても、受精に至る過程を教えないことにあります。つまり、性交なき受精だけを教わります。笑い話のようですが、実際の教育現場はそうした歪んだ構造になっています。
 また、学校や先生によって、大きなばらつきがあります。熱意を持って性教育に取り組む先生もいますが、多くの教師は「教科書を読んでおけよ」と軽く扱っているのが現状です。
 性教育の各国比較研究の第一人者である、女子栄養大学の橋本紀子名誉教授が行なった07年の調査では、日本の中学校における性教育の平均授業時間は「3年間合計で8.93時間」でした。しかし、フィンランドの中学校では、1年間で17時間。韓国では年間10時間の性教育が行われています。
 そもそも日本では、先生も性教育について教わる機会がありません。解剖学や生理学は学びますが、性の問題を扱うことはありません。教科書の中でも少ししか触れられていないから扱いにくい、扱いたくないという考えが、教える側の意識の根本にあるのです。
 諸外国では、理科の「生物」の時間に「人間の性」を教えます。しかし、日本では、「性交については扱わない」とされています。中高生が人間の性交について関心を持つのはよくない、好奇心を持たせるべきではない、という、古くからの純潔教育の考え方が根本にあるからです。性教育を科学教育としてではなく、道徳教育としてとらえるこの考えは現在も根強く、02年ごろには、保守的な政治家が「過激な性教育は性行為を助長する」と批判し、「性教育バッシング」が起こっています。
 その一方で、赤ちゃんの誕生は素晴らしいことであると教えています。現実には、母体保護の観点から、また女性の権利の一環として、中絶を選択することもあるはずですが、命の大切さを強調するあまり、「中絶はあるまじきこと」という認識が強まってしまうことにもつながります。
 避妊についても似たような状況です。中学校の性教育では「コンドーム」が登場しますが、避妊具としてではなく、性病予防の道具として扱われ、使用法は教えられません。避妊具の面を教えないのは、「中学生はセックスをしない」という意識が前提にあるからです。また、経口避妊薬(低用量ピル)は日本でも1999年に合法化されていますが、現在でも学校教育の現場ではあまり教えられていません。本来であれば、副作用とメリットを伝えた上で、選択するか否か、という話になるべきだと私は考えています。

家庭でできる性の意識の育て方

著者情報

性教育研究者

村瀬幸浩

むらせ ゆきひろ

1941年生まれ。東京教育大学卒業。私立和光高校の保健体育科教諭として25年勤務。その後、一橋大学、津田塾大学、東京女子大学で「セクソロジー」の講師をつとめた。1982年「“人間と性”教育研究協議会」の設立に参画、現在は同幹事。日本思春期学会名誉会員。著書に『男性解体新書』(1993年、大修館書店)、『男子の性教育』(2014年、大修館書店)、『ヒューマン・セクソロジー』(2016年、子どもの未来社)、『タジタジ親にならないために』(2017年、子どもの未来社)など多数。

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