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社会問題

子どもの性の商品化を止めたい!

日本は世界一の児童ポルノ発信国

藤原志帆子(人身取引被害者サポートセンターライトハウス代表)

 2015年1月、インターネット通販サイト「Amazon.co.jp」を管理・運営するアマゾンジャパン(本社・東京都目黒区)の本社や関連会社に対し、愛知県警察が家宅捜索を行った。容疑は、法律で禁止されている児童ポルノの販売ほう助。同県警少年課によれば、18歳未満の少女のわいせつ写真集を古書販売業者が出品、販売するのを放置していたとされる。海外では大きな社会問題にも発展しうる、子どもの性の商品化。一方で「日本人はあまりにも意識がゆるい」と啓発する、人身取引被害者サポートセンターライトハウスの藤原志帆子代表に、児童ポルノの現状について聞いてみた。

児童ポルノとはどんなもの?

 私たちライトハウスは、2005年から人身取引被害の電話相談窓口を開設しています。活動を進めるうちに、日本人の成人女性や子どもが被害にあったという相談が急増し始め、今では相談件数の8割近くにまでなりました。その中には「児童ポルノと思われる商品が、書店やネットで販売されている」「なぜ違法ではないのか」「内容がひどいから、なんとかしてほしい」といった情報提供もあり、人身取引に該当する問題として、実態調査をすることにしたのです。
 当時、児童ポルノとして問題視されたのは、ジュニアアイドルと呼ばれる小・中学生をモデルにした写真集やイメージビデオです。日本では1999年に児童買春・児童ポルノ禁止法が作られ、18歳未満の子どもを撮影したわいせつ図画は規制対象になっていました。にもかかわらず複数の出版社から、数えきれないほどの商品が発売されていたのです。中には普通のポートレート写真集もありましたが、大多数は「着エロ」といって薄着や水着で規制すれすれの露出をさせ、性行為を連想させるポーズをとらせたものです。中国や東ヨーロッパ、フィリピンなど外国人の子どもや、男の子をモデルにしたものもありました。
 これらは明らかにペドファイル(小児性愛者)を意識しており、ビデオやゲームを扱う店、アダルトショップ等で売られ、購買者の性的興奮をあおる内容となっていました。さらにインターネットでの流通を調べたところ、驚いたことに問題の商品の大半が、アマゾンジャパンのサイトから入手できることが判明。どの作品のタイトルや出演者名を検索しても、情報のトップには必ず「Amazon.co.jp」が出てくるのです。売り場はアダルトコーナーではなく、タレント写真集などと同じ扱いでした。それでいて商品紹介欄には全裸に近い過激な写真が載せられ、これは使えるとか使えないとか、この子はまだ胸がふくらんでないからいいよとか、悪質なレビューが書き込まれているわけです。
 当時、私たちが調べただけでも、約700点の児童ポルノと思われる商品が売られていました。なぜこうした写真集やビデオに、子どもたちは出演したのか? 他の支援団体等の話では、制作側の大人たちが取り囲んで「アイドルになる登竜門だから」と口車にのせて承諾させたり、「断ったら高額な違約金を請求するぞ」と拒めないように脅したり、中には親が勝手に契約してしまうケースもあったようです。

日本の社会風潮と児童ポルノ

 2008年、アメリカ大使館主催の児童ポルノに反対するイベントで、居合わせた大使館員にその話をしたら、「アメリカではそのような商品は違法なので、Amazon.comに限らず、通販サイトで売られることは絶対にないと思う。アマゾンジャパンに一度、連絡してみてはどうか?」とアドバイスをもらいました。念のため、着エロと呼ばれるような商品数点をアメリカ司法省の担当官にも見てもらい、判断をあおいだのですが、やはり「アメリカの法律では違法商品にあたるので国内販売はできない」という見解でした。
 そこで調べ上げた700点のうち、出演者の年齢が18歳未満と特定できた136点について、アマゾンジャパンに確認をお願いしました。それが09年のことです。結局、回答は得られなかったのですが、3カ月後には7~8歳の幼児の写真集などを中心に、6割程度がサイトから削除されていました。
 現在の日本の児童ポルノ禁止法では、全裸や下着姿の児童が性器、肛門、乳首を見せたり、それらの周辺部や胸部をことさら強調するようなポーズで、性欲を刺激させるものであるかどうか、が摘発要件を左右します。専門医が「明らかに児童である」と認定したものや、被写体の児童の年齢が特定されたものでなければ、摘発対象にならないのが現状です。ゆえに、児童ポルノの要件に抵触しているにもかかわらず、摘発できないケースが後を絶ちません。「疑わしいものは罰せず」という観点から厳密な解釈で運用されているため、いたちごっことなり、摘発逃れの「イメージビデオ」や「着エロ」が野ばなし状態なのです。
 1996年、児童買春の根絶を掲げる国際NGO「アジア観光における児童買春根絶国際キャンペーン」(ECPAT)が、子どもの商業的性的搾取に反対するための第1回世界会議を、スウェーデンのストックホルムで開催しました。そこで初めて「児童ポルノ」という言葉が使われたのですが、会議の中で「ヨーロッパ諸国で流通している児童ポルノの8割近くが、日本から発信されている」と、日本は名指しで批判されました。国際的な基準を初めて知ることになった政府は、児童買春・児童ポルノ禁止法を制定。これで日本でも児童ポルノがようやく定義され、製造、頒布、陳列、輸出入が処罰対象となりました。しかし単純所持だけは禁止されなかったので、国内流通を取り締まれない状況が長く続いてきたのです。

さまざまな業界が儲かる商売

 日本が児童ポルノ問題で海外より遅れをとるのは、規制が大きくなりすぎると表現の自由が脅かされるという意見があることが、理由の一つとされています。ですがもっと単純なところで、お金になるビジネスだからやめられない、という理由もあると思います。特別な知識や資本が不要なので参入しやすく、幼い子どもをスカウトしてきて、写真や動画を撮って売るだけで大きく儲かる。利益を得るのは制作会社や出版社だけでなく、小売店、クレジットカード会社、物流会社まで多岐におよんでいます。規制前に販売されていた子どもの裸の写真集などは、古書となっても1冊数十万円という高額で取引されていました。
 これがアメリカやヨーロッパであれば、幼い子どもを犯すようなビデオを制作・販売しようものなら、そこに関わった業者は社会全体から強く非難され、業界からも排除されてしまいます。もちろん児童ポルノを禁止する法律は、どの先進国も整備していますが、それ以上に周囲の大人たちが子どもを性の商品化から守っているのです。
 日本はどうでしょうか? じつはECPATの第2回世界会議はスウェーデン大使館の働きかけで日本がホスト国となり、2001年に横浜で開かれました。136カ国の政府と200団体近い国内外NGO、国際機関が参加して子どもの性の商品化反対を訴えたのですが、そのことを知っている人さえ少ないと思います。
 警察庁がまとめた統計によると、児童ポルノ事犯の検挙件数は年々増加傾向にあり、14年上半期は過去最多の788件でした。しかも低年齢児童の児童ポルノは4分の3が強姦・強制わいせつの手段によって製造され、約8割の事犯にインターネットの掲示板サイトや出会い系サイトなどが利用されていたこともわかりました。
 しかし摘発、検挙件数が上がる一方で、業者側も逃げ道を作っています。例えばペドファイル向けの作品では、顔立ちや体形で小学生にしか見えない18歳以上の女優を起用し、教師に扮した男優が暴力的にレイプする、といったコンセプトのビデオもたくさん出てきています。子どもへの性暴力をどんなに過激に描いた商品でも、出演者が18歳以上であれば、日本では児童ポルノ禁止法によって取り締まることができないのが現状です。

単純所持の禁止にかける期待

 さらに問題なのは多くの日本人が、こうしたビデオを性知識を得るための教材にしていることです。女優の演技によって作られた過激な性行為を信じ込み、小・中学生に性的好奇心を向けるようになったり、その結果、相手を負傷させてしまうこともあります。私たちが扱った事例でも「性教育」と偽って子どもにアダルトビデオを観賞させ、他の子もみなやっているのだからと、性的搾取を行う加害者がいました。
 こうした状況を止めるには、児童ポルノの法律上の定義を変えるしかありません。それには法律を作る立場にある人が、今の児童ポルノの内容がどういったものかを理解しておく必要があります。メディアも問題視はしているのですが、実際にどんな暴力が行われたか、といったところまで報じることができず、せいぜい「わいせつな行為をした」ぐらいの、オブラートに包んだような記事になります。それゆえ、広く一般の人々に対して、実態が伝わらないのだと思います。
 世界には、すでに児童ポルノ根絶に向け、日本より一歩も二歩も進んだ取り組みを行っている国もあります。例えば、カナダは単純所持を禁止する法律ができてから、サイバー捜査などを徹底させて取り締まりを強化。ヨーロッパ諸国も、単純所持の取り締まりにEU共通基準を設けるなど積極的です。日本も児童ポルノ禁止法の改正により、15年7月からようやく単純所持も処罰の対象となりました。が、先行きはまだまだ険しいでしょう。子どもの性には商品価値があり、大きな利益を出す商品になる、子どもに自己責任がある、と考える大人も少なくないからです。
 いくら成熟しているように見えても、子どもは自らを守る術(すべ)を持っていません。今一度、日本の子どもたちの将来を、どうしたら性的搾取から守れるのかをよく考えてほしいと思います。

著者情報

人身取引被害者サポートセンターライトハウス代表

藤原志帆子

ふじわら しほこ

1981年生まれ。98年にアメリカ合衆国のウィスコンシン州立大学に留学。在学中に人身取引問題について学び、卒業後は被害者支援団体ポラリスプロジェクト(本部・ワシントンD.C.)に勤務。2004年、日本事務所のNPO法人ポラリスプロジェクトジャパンを設立。14年からは団体名をライトハウスに改め、日本における人身取引被害の電話相談や救援、啓発や教育を目的とした講演活動等を行っている。

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