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社会問題

はまりやすく抜け出しにくいネット依存から、一体どう立ち直るか?

依存から脱却への道のり

黒川祥子(ノンフィクションライター)

 スマートフォン(スマホ)の普及により、子どもたちのインターネットとの付き合い方は激変し、昼夜を問わずにゲームやSNSに没頭するケースが増えている。保護者や教育関係者も危機感を抱き始め、例えば愛知県刈谷市では2014年4月から小中学校と保護者が連携し、子どもたちのスマホの夜間使用を制限する試みが始まった。
 ネット依存の専門外来を持つ独立行政法人久里浜医療センター(神奈川県)では、診察を希望する患者が激増し、初診まで数カ月待ちの状態が続いている。ネット依存の症状は昼夜逆転、不登校や引きこもりだけではない。成長期の子どもたちが寝食を削ってネットはまりこんでしまえば、栄養失調や成長不良につながりかねない。身近な人が「はまりやすく、抜け出しにくい」ネット依存に陥ったら、どうすればいいのだろうか。ノンフィクションライターの黒川祥子氏が、実際の治療方法を取材した。

家庭内で悩まない! まず専門機関に相談しよう

 わずか数カ月で、「依存症」が作られてしまうネット依存。アルコールなどへのさまざまな「依存」と同様、治療のためには専門治療機関を受診することが不可欠だ。家族で何とかしようとしても「依存」が出来上がっている以上、第三者が入らないと状況は変わらないのだ。
 久里浜医療センター、樋口進院長はこう語る。
「当院は都心からも駅からも遠い立地です。そこの外来に通うだけでも、ネットを一日中やっている生活が変わります。診察を重ねる中で、治療者との人間関係ができていくことも大きいです。通ってくれれば、少しずつ行動がよくなっていきます」
 実際に親に連れられて診察室にやってくるのは、治療の必要など感じていない仏頂面の子どもたち。だが、「嫌々でも、来ればまだいい」と樋口院長。親だけが来るケースは、全体の半分にも及ぶ。
「本人が登場しないと治療は始まりませんが、ご両親はお子さんの変貌に混乱していますので、まずは問題を整理して、『連れてくれば、少しずつ変わっていきますよ』とお話します。皆さん、先が見えたと安心して帰られます」
 2011年7月に専門外来をスタートして以来、状況が目まぐるしく変わっているのがネット依存の特徴だ。かつてはほぼパソコンを使ってのオンラインゲームだったのに、今やスマホ依存が激増。スタート時からしばらくは大学生と高校生が主流だったが、今は来院するのはほとんどが中高生、さらには小学生までがその対象という低年齢化の問題も浮上。急速な変化と多様なはまり方が、ネット依存の治療をより困難にしている。

初診・再診で問題のありかを考える

 初診のためにはまず電話で予約を取る。ネット依存外来で新しい患者の予約を受けるのは、臨床心理士だ。このように入口から専門家が対応する態勢が取られている。臨床心理士は初診時には、医師の診察の前にインテーク(聞き取り調査)を行う。ネット依存担当の臨床心理士、三原聡子さんはこう語る。
「インテークでは家族歴、生活歴はもちろん、ネットの使い方やゲーム内容の変遷、何時から何時までどういう器械で何のゲームをやっているのか、お金を使いすぎたことはあるかなど、細かく詳しく聞き取ります。また、主に再診時に行う心理検査では他の依存や疾患、抑うつなどの症状がないか、依存しやすい傾向があるかなどを調べます」
 こうして医師の前に座ることとなるのだが、樋口院長によれば患者との信頼関係構築が治療の鍵となる。
「患者さんが置かれている状況と、依存の重篤さに応じて、一人一人考えていかないといけない。そのためにも、まずは信頼関係を作ることが大事です」
 無理やり連れてこられた子どもたちを外来につなぎとめるのに有効なのが、さまざまな検査だ。わずか数カ月、インターネットにはまっただけなのに、骨密度も体力年齢も栄養状態も極端なまでに落ちていることが多い。検査結果の通知のために次の外来を設定し、面会の回数を重ねて患者との信頼関係を作っていく。
 ネット依存の治療には、他の依存症治療との根本的な違いがある。たとえばアルコールやギャンブル依存なら、「止める」という明確な治療目標を設定できる。しかし、もはや現代社会からインターネットを切り離すことができない以上、治療目標は「適応的な使い方」となるが、これはいとも簡単に依存状態に戻ってしまう危険性を持っている。
 久里浜医療センターでは外来診察以外に、「カウンセリング」、「認知行動療法」、「NIP(デイケアグループ治療)」、「入院治療」といろいろなオプションを用意して、ネット依存の治療に当たっている。ここからは、各オプションを具体的に紹介する。

外来でネット漬けの日々を振り返る

 診察の基本は毎回、本人が作成してきた行動記録を医師が患者と一緒に振り返ることだ。樋口院長はこう語る。
「生活のどの部分を直していけばいいのかを本人と話して、次の目標を決めます。そして次までに、例えば『遊ぶ時間を1時間減らそう』と約束をします。行動記録をつけること、振り返ること、改めていくように促すこと。これだけでも、少しずつ変わっていきます」
 少しでも変化が見られれば、誉めることも大事だという。オンラインゲームにはまって以来、家族から否定的な言葉しか投げかけられていない子どもたちにとって、それは大きな励ましだ。
「第三者が誉めるのは、とても大事なことです。子どもたちは漫然と外来に通っているのではなく、少しでも変わったところを見てもらいたいという気持ちを持っています。われわれが彼らと一緒に喜んだり誉めたりすると、少しずつ依存という問題行動が改善されていく。だから、外来につなぎとめておくのは極めて大事なのです」
 重要なのはいろいろな治療のオプションを、どう組み合わせるか。1対1の外来診察を重ねるか、あるいはグループ治療を取り入れていくか。それは一人一人違う。
「個々のケースで組み合わせを考えて治療を進めていきますが、そのためには、その子がどんな問題を抱えているのか、診察を通して見極めていくことが大事ですね」

カウンセリングで他の問題を探る

 医師の診察だけでなく、臨床心理士が行うカウンセリングも重要な治療の一環だ。オンラインゲーム依存の背後に、別の問題が潜んでいることが往々にしてあるからだ。
 患者の中には、対人関係が苦手な子が少なからずいるという。大勢の中に入っていくととても疲れる、どうしても劣等感を覚えてしまうという子には、社会不安を弱めるための薬剤を処方することもあるし、カウンセリングによる本人へのサポートが重要となる。実際、社会不安が弱まることで、ゲームへの依存度が低くなり、治療の効果が表れることもあるという。
 家族の問題を含めて、子どもたちがネット以外にどんな問題を抱えているのかをあぶり出し、サポートしていくカウンセリングの役割は治療には欠かせない。

認知行動療法で自分を分析

 ここでいう「認知」とは、ものの受け取り方や考え方のこと。ネット依存に限らず、うつ状態や不安障害などの特別な状況下では認知にゆがみが生じている。こうしたゆがんだ認知に働きかけて、気持ちを楽にする精神療法が認知行動療法だ。同センターではアルコールなどの依存症治療に活用してきたが、ネット依存に対応するようプログラム化し、主に入院患者を対象に実施してきた。
 前出の三原さんはプログラムの概要をこう説明する。
「最初にまず、ネットの使い方を振り返ってもらいます。どういう時に使いたくなるのか、依存してしまう心理的な状態を本人に理解してもらい、ネットにはまってしまうパターンをどうすれば変えられるのかを一緒に考えていきます」
 一人一人の依存状態が違うからこそ、プログラムも画一的ではない。
「基本のプログラムはありますが、人によって背景が違うので、その子その子に即した形に変えていきます。MMORPG(Massively Multiplayer Online Role-Playing Game、大人数参加型のオンラインロールプレイングゲーム)を例に挙げると、ゲーム上の全国大会に出るようなチームに加わって遊んでいる子にとっては、仲間との絆がとても強い。同期の友だちとリスペクトし合って、いわば『戦場を渡り歩いている』という感覚ですから、その子にとって『ちょっとだけ遊ぶ』というのは仲間に迷惑がかかる、あり得ない遊び方。ですので、『全くゲームをしない、やめる』という目標を立てます」
 一方、コミュニケーションを取らない遊び方をする子どももいる。ゲームの中では他の参加者から話しかけられることもある。そうならないように外国人のふりをして、一人で長時間遊ぶのだ。こういった子の場合、仲間から際限なく誘われるようなことはない。そこで、「時間を決めて、週末だけ遊ぶ」という、抑制の効いた使い方を目標とする。三原さんは言う。
「ネットを使う目的は、子どもにより実にさまざま。背景にまで立ち入らないと、効果的な治療にはなりません。オンラインゲームをやっている子ども同士は、他にもいろいろなネットワークでつながっています。ゲームに参加しないでいても、ツイッターやLINEで誘われたらどうかわすか、新しいゲームが公開されたら、遊びたくなる気持ちをどう収めるか。あるいはネット以外の趣味をどう作るか、そういうことまで徹底して一緒に考えていかないと、一度はネットから距離を置いたと思っても、簡単に元の依存状態に戻ってしまいます」

入院治療でネット断食

著者情報

ノンフィクションライター

黒川祥子

くろかわ しょうこ

1959年福島県生まれ。東京女子大学文理学部史学科卒業。業界紙記者などを経てフリーライターとなり、家族の問題を中心に執筆活動を行う。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち』で第11回開高健ノンフィクション賞を受賞。著書に『熟年婚』(河出書房新社)。 また、橘由歩の筆名で『「ひきこもり」たちの夜が明けるとき』(PHP研究所)、『身内の犯行』(新潮新書)、『セレブ・モンスター』(河出書房新社)、『全国ごちそう調味料』(幻冬舎)、『県立!再チャレンジ高校』(講談社現代新書)、『PTA不要論』(新潮新書)、『8050問題』(集英社)、『心の除染』(集英社文庫)、などがある。息子が二人いるシングルマザー。

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