imidas - 情報・知識&オピニオン

探究

社会問題

反貧困・反格差、生きる権利を求める新たな闘いを

東日本大震災で一層悪化した日本の貧困率

雨宮処凛(作家、活動家)

 2008年のリーマン・ショック以来、悪化に歯止めがかからなくなってしまった日本の若者の貧困・格差問題。11年3月11日の東日本大震災後は、マスコミ報道すらなくなったが、事態はとても逼迫(ひっぱく)している。そうした中、アメリカを皮切りに反貧困・反格差を叫ぶ新たな潮流が生まれ始めた。

世界に飛び火する反格差デモ

「われわれは99%だ!」
 こんな合言葉から始まったアクションが、世界中に広まっている。
 きっかけは2011年9月、アメリカのニューヨーク市で「ウォール街を占拠せよ!」と若者たちが結集し始めたこと。彼らの訴えはシンプルだ。
「1%の人が富を独占するのはおかしい」「富める者に増税を、貧しい者に食べものを」。
 当初は1000人程度だった参加者は、すぐに数万人規模に膨れ上がり、ヨーロッパやアジアに飛び火した。10月15日、ウォール街占拠を続ける「OCCUPY WALL STREET」は、全世界の怒れる人々に、世界各地で「OCCUPY=占拠」を呼びかける。この日、なんと世界1500カ所で、OCCUPY WALL STREETに連帯するアクションが繰り広げられた。
 反格差デモ。「われわれは99%だ」という主張から、彼らの行動はそう呼ばれている。
 実際、アメリカでは1%の富裕層が所得の24%、資産の40%を独占しているという。それでは、翻って日本はどうなのだろうか。
 10月21日の毎日新聞に掲載された「くらしの明日 私の社会保障論」において、反貧困ネットワーク事務局長であり、内閣府参与の湯浅誠氏は以下のように書いている。
「約8000万円以上の投資可能資産を有する富裕層がアメリカに次いで多い日本(10年で174万人)も、個人金融資産1億円以上を持つ1.8%の富裕層が、全体の20%を超える254兆円の資産を保有するに至っている。『なんだかアメリカが騒がしい』という話ではない」

貧困・格差へ突き進む日本社会

 そう、格差は何もアメリカだけのことではないのだ。
 日本で格差社会という言葉が、メディアに頻出するようになったのは07年ごろのこと。全国の工場で、派遣や請負で働く若者たちの厳しい労働実態や、日雇い派遣という不安定な働き方が注目され、08年にはネットカフェなどを転々としながら、その日暮らしを余儀なくされる新しい形のホームレスとして、ネットカフェ難民が注目された。
 同時に注目されたのは、1990年代以降に進んだ労働法の規制緩和や、それを推し進めるきっかけとなった「新時代の『日本的経営』」というレポートだ。95年、日経連(日本経済団体連合会)は、今後は働く人を「長期蓄積能力活用型」「高度専門能力活用型」「雇用柔軟型」の3つに分けることを提言。これによって、低賃金で不安定な非正規雇用が増えた、といわれている。
 そうして2008年、リーマン・ショックが起きたことにより、大々的な派遣切りが、不安定層の生活を根こそぎ破壊する。08年末から09年始にかけて、日比谷公園には年越し派遣村が出現し、住む場所も職も所持金も失った500人以上が、極寒のテントの中で年を越した。その光景は、長らく日本で忘れられていた「貧困」を可視化させ、また、非正規雇用などの働き方が、時にホームレス化と直結する問題であることを日本中に知らしめた。

3.11で労働破壊が浮き彫りに

 しかし派遣村を頂点として、貧困問題が注目される機会は、その後一気に減ったといえる。メディアはあれ以上の「絵になる光景」がないと、なかなか動いてくれないうえ、09年夏の政権交代も根拠のない“一服感”を与えた。
 そうして11年3月に起きた東日本大震災と東京電力福島第一原発事故で、貧困問題は確実に飛んだ。メディアの優先順位は当然低くなり、そうなると世間的には、「過去の問題」という認識が広がる。
 しかし、実態はどうなのかというと、むしろ貧困問題が注目を浴びていたころよりも、確実に悪化している。11年7月に厚生労働省から発表された貧困率を見ると、09年は過去最悪の16.0%。ちなみに、貧困大国といわれるアメリカの貧困率は15.1%と、日本より「マシ」な状況である。
 一方、生活保護受給者は、200万人を突破。非正規雇用率も38.7%と4割弱に迫り、悪化している状況だ。高止まりしたままの失業率、低いままの有効求人倍率。棚ざらしになったままの、労働者派遣法などの法改正。事態が改善される兆しはまったくないにもかかわらず、忘れられていった貧困問題。
 しかし、この問題は、住む場所や職を失った被災者にも通じる問題だ。実際、津波で家を流されて他県に移り住んだり、原発事故による避難生活を強いられている人々の貧困問題が深刻化しているという状況がある。一方で、震災直後に単身で東京などにやってきた若者たちが、派遣労働につくものの、生活が安定せず、車上ホームレスとして漂流しているという話も聞く。そんな彼らを言葉巧みに福島第一原発での仕事に勧誘するルートも、すでにできているようだ。
 ある意味で、東日本大震災は、震災以前のこの国の労働破壊や制度の貧困を浮き彫りにした。そして、そんなこの国のひずみは今、被災者のみならず、被災地以外の失業者や不安定層を襲っている。

日本の貧困に再び注目せよ!

 では、何をすべきか。
 ウォール街の若者たちが11年10月15日、世界中にアクションを呼びかけたことは先に書いたが、この日、日本でもいくつかの連帯アクションが行われた。私は六本木の公園を「占拠」する「OCCUPY TOKYO」に参加したのだが、200人近くが結集したこの日、それぞれが持参したプラカードには「マトモな仕事と住宅をよこせ」「生きる権利を取り戻せ」「金持ちばかりが得する社会はおかしい」といった言葉が躍っていた。占拠中には、インターネットでアメリカの若者たちと連帯メッセージの交換。「今、世界中の人たちが、生きる権利を求めて闘っている。欲望が渦巻く社会を一緒に変えよう」という言葉を貰い、参加者は沸いたのだった。
 日本ではブームとして過ぎさった感のある貧困・格差問題に、今、世界各地で抵抗が起きている。グローバリゼーションのもと、99%が1%の金持ちのマネーゲームの尻拭いをするような構造は、リーマン・ショックで明らかとなった。そんな構造に対して、多くの人が声を上げているのだ。
 この流れの中、日本の貧困は「問題意識の逆輸入」という形で再び注目を集めるだろう。世界は1%のためにあるのではなく、世界を変える主体は、当然ながら99%なのだ。
 この世界的な動きに、私は心からの連帯のエールを送りたい。

著者情報

作家、活動家

雨宮処凛

あまみや かりん

1975年、北海道生まれ。作家、活動家。反貧困ネットワーク世話人。バンギャル、右翼活動家を経て、2000年に自伝的エッセー『生き地獄天国』でデビュー。自身の経験から、若者の生きづらさについて著作を発表する傍ら、イラクや北朝鮮へ渡航を重ねる。その後、格差や貧困問題について取材、執筆、運動を続ける。『生きさせろ! 難民化する若者たち』でJCJ賞受賞。著書に『一億総貧困時代』『「女子」という呪い』など多数。

関連記事