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アメリカが「核のない世界」を語り始めた

「核の傘」に頼る日本の選択は?

川崎哲(ピースボート共同代表)

 2009年4月、アメリカのオバマ大統領が「核のない世界を目指す」と宣言。世界は今、核軍縮を大きく前進させる好機を迎えている。だが日本は被爆国としての役割を果たしているのだろうか。

オバマの宣言で「核廃絶」に現実味

 「アメリカは、平和で安全な、核兵器のない世界をめざす」
 オバマ大統領は2009年4月5日、チェコのプラハでこう演説し、「核のない世界」という目標に向けてアメリカの政策を大きく転換させることを宣言した。具体的には、米ロ新核軍縮条約を年内に締結すること、すべての核爆発実験を禁止する包括的核実験禁止条約CTBT)を批准することや、「核安全保障サミット」を10年に開催することなどを表明した。これは「核兵器を使用した唯一の国としての道義的責任」であるとも述べた。
 オバマ大統領は、核の廃絶は「おそらく私が生きている間ではない」としている。それでも、1945年に広島・長崎に核兵器が投下されてから64年の歴史の中で、今ほど核廃絶が現実味を帯びて語られているときはない。
 世界にはいま、核兵器が2万3000発以上ある。そのうち96パーセントは、アメリカとロシアのものである。「もっとも危険な冷戦の遺産」とオバマ大統領がプラハ演説で呼んだ通りだ。
 1970年の核不拡散条約NPT)は、アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国の5カ国を核保有国として公認する一方で、他の国々が核兵器をもつことを禁止した。明らかに差別的な条約であるが、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮を除くほとんどの国が加盟している。そこには、非核国は核をもたないと約束するかわりに核保有国は核軍縮をおこなうという「取引」の関係がある。
 NPTの歴史は、核保有国と非核国の交渉の歴史でもあった。NPTは5年ごとに条約の運用を点検する「再検討会議」をおこなっている。1995年の再検討会議ではNPTの無期限延長が決められた一方、南アフリカなど途上国グループの強い働きかけの結果、核保有国は「核廃絶という目標に向けた努力」を約束した。
 2000年の再検討会議では、スウェーデン、アイルランド、ブラジル、ニュージーランドなど「新アジェンダ連合」と呼ばれる中堅国グループが核保有国と交渉して、核保有国による「核兵器を全面廃棄するという明確な約束」を勝ち取った。合わせて、「13項目の核軍縮措置」が合意された。CTBTの発効、核分裂性物質の生産禁止条約(FMCT)の交渉開始といった措置である。
 ところが01年、アメリカにブッシュ政権が誕生すると状況は一変した。9.11テロが起き、アメリカは「テロとの戦い」になだれ込んだ。ブッシュ大統領は、イラクの核疑惑を主張し戦争を始めた。その後もイランや北朝鮮の核問題を取り上げ、これらを力ずくで押さえ込む政策を展開した。さらに、これら「ならず者国家」に向けては核の使用も辞さないという戦略を打ち出し、そのための新型核兵器の開発にまで着手しかけた。
 ブッシュ政権の主張は、核保有国の自分たちには非がない、悪いのはイランであり北朝鮮でありテロリストだというものだった。当然、非核国側は反発した。その結果、05年のNPT再検討会議は決裂し、合意ゼロで終わった。この年にノーベル平和賞をとった国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイ事務局長は、ブッシュ政権を「タバコを口にくわえて他の皆にタバコを止めろと言うようなもの」と評した。

核政策を転換したアメリカの「動機」

 オバマは、このようなブッシュの手法からの転換を宣言した。すでに07年、キッシンジャー元国務長官、ペリー元国防長官らかつて核戦略の中枢にいた重鎮「4人組」が核兵器廃絶の提言を発表し、世界的な注目を集めていた。オバマ大統領は、この流れをくんで新しい核政策を打ち出したのである。
 実際のところ、アメリカのこの変化は、「今のままではアメリカ自身が核の危険にさらされる」という現実的な認識に基づくものだ。新たに核保有を狙う国が増え、テロリストなど非国家グループが核物質を入手する危険も増えている。こうした危険を防ぐには、不拡散を強化して、非核国への規制を強めなければならない。しかし、そのために非核国を説得するには、自分たちがまず核軍縮をしなければならない。このような計算がオバマ政権にはある。実際、オバマ大統領が提唱する10年春の「核安全保障サミット」の主要テーマは、核物質の保安など核テロ防止策であり、アメリカの関心の所在がうかがえる。
 むろん、アメリカの動機が何であれ、「核のない世界」に向けた大きな政治的流れが生み出されたことは確かだ。こうした中で来る10年5月にNPT再検討会議が開かれるが、合意以来10年近くたなざらしにあってきた核軍縮措置を核保有国がどれだけ真剣に実行するのかに注目したい。

核の「先制不使用」に反対する日本

 こうした世界的な流れの今後を占ううえで、実は日本が大きな鍵を握っている。日本は、安全保障のためにアメリカの核兵器すなわち「核の傘」(拡大抑止)に依存するという政策をとっている。アメリカが核を減らそうとすれば、日本など同盟国を守るための核をどうするかという問題にぶつかる。
 オバマ大統領は「安全保障における核兵器の役割を減らす」と述べ、核戦略の見直しに着手した。年内にもまとめられる新戦略の中では、核の先制不使用が検討されている。先制不使用とは、核兵器を先には使わず、核攻撃された場合のみ使うという政策だ。また、核兵器の役割は敵の核兵器を抑止することに限定し、生物・化学兵器など「核以外の脅威」に対しては核を用いない、という意味合いもある。このような政策が採択されれば、核兵器の使用シナリオが減るから、核兵器の大幅削減が可能になる。
 ところが日本政府は、この先制不使用に強く反対している。日本政府の主張は、とりわけ北朝鮮の脅威にさらされている日本にとって、核の先制使用を含むアメリカの強力な核戦力が引き続き必要というものだ。
 アメリカ国内では、CTBT批准などを進めたくない保守派が、日本のような同盟国がアメリカの核を必要としていることを挙げて、「だから性急な核軍縮は進めるべきではない」と主張している。
 このほかにも、核兵器に転用可能な物質に対する規制を強めようという流れの中で、日本が青森県六ヶ所村の再処理工場で始めようとしているプルトニウム生産が、国際問題に発展する可能性がある。
 日本は「唯一の被爆国」として世界に核廃絶を訴えてきた、と多くの日本人は思っているだろう。しかし、国際社会が「核のない世界」を真剣に語り始めた今、皮肉なことに日本がそれに待ったをかけようとしているのが現実の姿だ。「核に頼らない日本」を議論することが、待ったなしの課題である。

著者情報

ピースボート共同代表

川崎哲

かわさき あきら

1968年生まれ。東京大学法学部卒業後、NPOピースデポ事務局長などを経て現職。2017年にノーベル平和賞を受賞した核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)国際運営委員を務める。著書に『新版 核兵器を禁止する』(岩波ブックレット、2018年)、『核拡散』(岩波新書、03年)。共著に『殺人ロボットがやってくる?!』(合同出版、18年)、『イマジン9-想像してごらん、戦争のない世界を』(合同出版、07年)などがある。

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