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ミサイル防衛で日本を守れるか

8000億円が投じられた「対米支援の道具」

半田滋(防衛ジャーナリスト)

 2009年3月、北朝鮮が「人工衛星打ち上げ」を宣言。日本政府は領域内への落下に備えて、初の「弾道ミサイル等破壊措置命令」を発令した。だが、ミサイル防衛システムで本当に日本は守られるのだろうか。冷静に検討してみれば、さまざまな問題が見えてくる。

初めての「破壊措置命令」

 北朝鮮が発射した「人工衛星」は、日米のミサイル防衛(MD)システムを初めて実戦モードに引き出した。MDはミサイル攻撃を無力化する「拒否的抑止」の切り札のはずだが、「人工衛星」であれば抑止は効かず、MDによる対処を迫られる想定外の事態となった。
 2009年3月27日、東京・新宿の防衛省。地上発射型迎撃ミサイルPAC3の発射機が2基、運動場に並べられた。目の前には高層ビルがあり、他の建物との距離は100mもない。
 PAC3が発射された場合、周囲はどうなるのか。迎撃して破片が飛び散る範囲はどこまでか、また失敗する確率はどの程度か。レーダー波の影響はないのか。新宿区危機管理課は二度、防衛省の説明を受けたが、疑問に対する明確な回答はなかった。
 政府は迎撃による被害について、ミサイルの弾頭に核兵器が搭載された場合を前提に「相対的に被害を小さくできる」と説明してきた。今回、落下の可能性があるのは飛翔体やその一部とされるのに「破壊措置命令」を出したのは、自衛隊法で定めた破壊対象に「弾道ミサイル等」と「等」があるからだ。
 防衛省高官は「次回も同様の対応をとる」という。つまり、イージス護衛艦を日本海と太平洋に配備し、北朝鮮が予告した飛行ルートと政治経済中枢のある東京にPAC3を展開する。あの大騒ぎが繰り返されることになるのだ。
 そもそも、迎撃ミサイルは当たるのだろうか。アメリカ物理学会は2003年7月、アメリカ政府が04年度から初期配備するMDに「ほとんど実用性がなく、効果がない」とする研究結果を発表した。防衛省は08年7月、社会民主党の辻元清美衆院議員の質問主意書に「弾道ミサイルの種類、発射場所及び着弾場所などによっても変化するので、数値を示すのは困難」と答え、不安定な迎撃率を示唆している。
 核弾頭を搭載した弾道ミサイルを一発でも撃ち漏らしたら、MDの意味はない。大陸間弾道ミサイルが登場した1960年代からの軍事常識である。迎撃ミサイルを増やしても、少しでも多く迎撃を潜り抜けることができるように、相手がそれを上回る数の攻撃ミサイルを増やし、果てしない軍拡競争に突入することになるからだ。まさに「矛盾」を引き起こすことに気づき、アメリカとソ連は72年、弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約を締結した。

守屋被告が旗振り役の「対米支援」

 この条約を一方的に破棄し、軍需産業やネオコンに支えられてMD開発に突き進んだのがアメリカのブッシュ政権だ。そのアメリカから世界で唯一、SM3とPAC3を購入しているのが日本である。2003年12月、小泉純一郎政権下で、導入が閣議決定された。当時の防衛庁防衛局長で、旗振り役を務めた守屋武昌被告(収賄罪で有罪判決、09年5月時点で控訴中)は「MD開発にアメリカは10兆円を投じた。同盟国として支援するのは当然だ」と述べ、MD導入が「対米支援」であることを明言している。
 アメリカからのMD導入のため、09年度までに防衛費から8459億円の巨費が投じられた。SM3を発射するイージス護衛艦の改造費やPAC3の原型となったPAC2の改修費のほか、迎撃ミサイルの購入費にも充てられている。
 SM3は一発20億円、PAC3は5億円とされる。PAC3は久間章生元防衛庁長官の働きかけにより、三菱重工業でライセンス生産が始まった。国産化したPAC3はライセンス料が上乗せされて割高となり、一発8億円とされる。
 日米の軍産複合体によるMD開発は、終わりなき「賽(さい)の河原」に似ている。技術の向上に合わせて武器改修を続ける「スパイラル開発」と呼ばれるエンドレスの支出が続くからである。オバマ政権となったアメリカでは見直しを表明したが、日本では北朝鮮の「人工衛星」に際し、自由民主党議員が東北地方へのPAC3常設を訴えている。
 だが、防衛費は無限ではない。7年連続して削減され、08年度は4兆7000億円。このうち、4割は人件・糧食費、残り4割は高騰する武器のつけ払いの歳出化経費に消え、残り2割の9000億円が自衛隊の活動費になる。この9000億円で訓練費や燃料費、武器の修理費を捻出する。
 09年度からは米軍再編のグアム移転費(346億円)が計上され、防衛費は行き詰まりを見せる。「総額3兆円」(ローレス国防副次官)とされる米軍再編経費について、防衛省は防衛費からの支出を見直すよう財務省に求めているが、省内の誰一人として実現するとは考えていない。MD、米軍再編とも外務省、財務省を飛び越え、防衛省(とくに守屋被告)が単独で行ったスタンドプレーだったからである。
 防衛省はMD、米軍再編によって自らを「兵糧攻め」にする一方で、兵糧攻めの原因でもある「対米支援」を続けざるを得ない。

システムの「中身」は自衛隊も知らない

 北朝鮮の「人工衛星」事案では、アメリカの早期警戒衛星による「発射」の情報提供があったことは知られているが、自衛隊のイージス護衛艦の探知情報も戦術データ装置リンク16を通じて米軍に提供された。
 06年5月に日米合意した米軍再編ロードマップでは、在日米軍司令部のある横田基地に共同統合運用調整所をつくり、MDでさらに連携することが明記されている。
 アメリカ本土を狙った弾道ミサイルを海上自衛隊のイージス護衛艦が迎撃すれば、集団的自衛権の行使となり、憲法違反の事態となる。だが、MDを開発したのも、イージス・システムを開発したのもアメリカである。自衛隊は「知らない」からSM3やPAC3の性能を説明できず、イージス護衛艦の心臓部のイージス・システムも中身の分からないブラック・ボックスとして活用しているに過ぎない。
 防衛省幹部は「日米で連携するには、防御する都市を決めなければならない」という。対処手順のプログラムを作成するのは当然、アメリカである。日本が防御すべき都市の優先順位を東京、大阪などと申告しても、アメリカがその通りにプログラムするかは分からない。
 対米支援を強調する人すらいる。安倍晋三元首相は「アメリカを狙った弾道ミサイルは当然、迎撃すべきだ」と主張し、集団的自衛権行使を衆院選挙の公約とするよう麻生太郎首相に迫った。
 国民の税金で得体の知れないアメリカのMDを買い、そのMDでアメリカを守る。アメリカにとって日本は、なんと便利な国であろうか。

著者情報

防衛ジャーナリスト

半田滋

はんだ しげる

1955年、宇都宮市生まれ。元東京新聞論説兼編集委員。獨協大学非常勤講師。法政大学兼任講師。2007年、東京新聞・中日新聞連載の「新防人考」で第13回平和・協同ジャーナリスト基金賞(大賞)を受賞。著書に『安保法制下で進む! 先制攻撃できる自衛隊―新防衛大綱・中期防がもたらすもの』(あけび書房)、『検証 自衛隊・南スーダンPKO-融解するシビリアン・コントロール』(岩波書店)、『零戦パイロットからの遺言-原田要が空から見た戦争』(講談社)、『日本は戦争をするのか-集団的自衛権と自衛隊』(岩波新書)、『僕たちの国の自衛隊に21の質問」(講談社)、『「戦地」派遣 変わる自衛隊』(岩波新書)=09年度日本ジャーナリスト会議(JCJ)賞受賞、『自衛隊vs.北朝鮮』(新潮新書)などがある。

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