専守防衛から先制攻撃へ?
半田滋(防衛ジャーナリスト)

米海兵隊との訓練で水陸両用車「AAV」上陸後に展開する自衛隊の部隊(陸上自衛隊HPより)
「先に攻撃した方が有利」
「専守防衛は、純粋に防衛戦略として考えれば大変厳しい。相手からの第一撃を事実上甘受し、かつ国土が戦場になりかねない。先に攻撃した方が圧倒的に有利になっているのが現実であります」
安倍晋三首相は今年(2018年)2月14日の衆院予算委員会で、こう述べた。日本の国是である「専守防衛」は防衛戦略としては下策であり、先制攻撃が上策であるという趣旨である。
めまいを覚えた。先制攻撃を受けた国がこれを甘受すれば、首相の言う通りかも知れない。反撃してきたとすれば、結局、国土が戦場となりかねない。真珠湾攻撃から始まり、日本全土が焦土と化した太平洋戦争を忘れたのだろうか。
首相は同時に「わが国としては、今後とも専守防衛の方針を堅持していく」とも述べているが、通常国会が召集された1月22日の施政方針演説では「年末に向け、防衛大綱の見直しも進める。専守防衛は大前提としながら、従来の延長線上ではなく国民を守るために真に必要な防衛力のあるべき姿を見定めていく」と表明している。
つまり、こういうことであろう。「専守防衛」の看板を掲げながらも、これまでと違った自衛隊を目指していく、先制攻撃のできる強力な軍事力を持たせる、と。事実上の軍隊を持つことに首相の本音があるのではないだろうか。
自らが提唱し、自民党で検討を進める自衛隊を明記する改憲案について、首相は「自衛隊を書き込んでもその役割は変わらない」「国民投票で否決されたとしても自衛隊は合憲」と主張する。明記してもしなくても、国民投票で負けても自衛隊の役割に変化がないのだとすれば、850億円もかけて国民投票をする意味はない。
安倍首相は歴代の自由民主党政権が「憲法上、行使できない」としてきた集団的自衛権の行使について、日本の存立が脅かされるような存立危機事態であれば、許されると一方的に憲法解釈を変更し、集団的自衛権行使を解禁する安全保障関連法を強行成立させた。この手法と同じように「時の政権」によって解釈の幅を広げさえすれば、「自衛隊の軍隊化」はさほど難しくないと考えているのではないだろうか。
日本防衛の指針である「防衛計画の大綱」は年末には閣議決定され、2019年度から新大綱に置き換えられる。憲法改定のための改憲発議、国民投票と日程が重なることもあり、改憲を視野に入れた大胆な安全保障政策が打ち出される可能性は高い。
安倍政権が狙う「次の一手」
2012年12月に誕生した第二次安倍政権の足跡を振り返ると「次の一手」が見えてくる。現大綱が13年12月に閣議決定されるより半年前の同年6月4日、自民党は「新『防衛計画の大綱』策定に係る提言」を発表した。
「具体的な提言」として、(1)憲法改正と「国防軍」の設置、(2)国家安全保障基本法の制定、(3)国家安全保障会議(日本版NSC)の設立、(4)政府としての情報機能の強化、(5)国防の基本方針の見直し、(6)防衛省改革、の6項目が打ち出された。
内容を読んだとき、失笑を禁じ得なかった。憲法や法律のもとにあるのが日本の安全保障政策、すなわち「防衛計画の大綱」である。改憲や新法の制定といった自民党の願望を大綱に盛り込むのは馴染まないからである。
事実、現大綱には、そうした項目は反映されなかった。しかし、どうだろう。大綱に盛り込まれなくても、安倍政権の長期化により、(3)の国家安全保障会議は安全保障関連法の制定により実現し、(4)の情報機能の強化は特定秘密保護法の制定によって実現した。また(6)の防衛省改革はとっくに終わっている。
そして今、直面しているのが、(1)の憲法改正による事実上の国防軍の保持である。改憲が実現すれば、現行憲法の平和主義を反映してつくられた「国防の基本方針」も自民党の提言通りに変更されるのは時間の問題だろう。すると(5)も実現するのだ。
わが国は1957年に制定された「国防の基本方針」に従い、「専守防衛」「軍事大国とならないこと」「非核三原則」「文民統制の確保」という平和国家の理念を維持してきた。現在、改憲案を議論している自民党は「文民統制の確保」は維持するとしているが、残り3項目は改憲を前提に見直される公算が大きい。この3項目を裏返せば「先制攻撃の採用」「軍事大国化を目指す」「非核三原則の廃止」となる。
さらに自民党提言には「陸上総隊の創設」「海兵隊機能の保有」「策源地攻撃能力の保持」「無人機・ロボットの研究開発の促進」「自衛隊の人員・装備・予算の大幅な拡充」「自衛官に対する地位と名誉の付与」といった具体的な目標が書かれている。自民党提言を通じて、先制攻撃が可能な強大な軍事力を持った自衛隊像が浮かぶのである。
繰り返すが、これは5年前の自民党提言である。かなり勇ましい目標が並び、このうち現大綱に採用された「陸上総隊の創設」「海兵隊機能の保有」がこの2018年3月に実現したのである。

“大本営”と“海兵隊”が登場する
陸上総隊は陸上自衛隊の最上位に位置する総司令部を指す。太平洋戦争当時、旧日本軍の陸軍大本営が強大な力を持ち、軍部の暴走につながった反省から組織の勢力を削ぐ意味を込めて陸上自衛隊は全国を5つに分ける5個方面隊制を維持してきた。それが陸海空自衛隊の統合運用に必要との理屈で、いわゆる大本営は復活するのだ。
陸上自衛隊に総司令部は必要だろうか。
東日本大震災が発生した11年3月のことだ。震災発生を受けて当時の火箱芳文陸上幕僚長は全国の部隊に対し、東北への派遣を命じた。北海道の第2師団、関東の第12旅団、名古屋の第10師団、九州の第4師団と陸上自衛隊に15個ある師団・旅団のうち、被災した東北の2個師団を含めて約半数が被災地に揃ったことになる。火箱氏は残る師団・旅団には航空自衛隊の基地に資材を送り、空自と連携して物資を提供するよう命じた。
退官時の記者会見で火箱氏は「陸幕長なのに陸上総隊司令官のようなことをした」と感慨深げに振り返っている。
陸上総隊構想は1990年代に陸幕内で検討されたが、権力の集中を心配した防衛庁背広組の内局が反対して消えた。2002年の検討では、東北方面隊を廃止して陸上総隊を創設する案にOBらが反対し、海外活動やテロ対処を専門とする中央即応集団の新設でお茶を濁して決着した。
しかし、防衛省・自衛隊の不祥事をきっかけに首相官邸に置かれた「防衛省改革会議」は、08年7月、統合運用を担う統合幕僚監部の機能強化の一環として陸上総隊の新設を提言。民主党政権の誕生により、提言は一時棚上げされたが、12年の第二次安倍政権の誕生により、完全に息を吹き返した。
陸上幕僚長は防衛大臣を補佐する制服組トップの補佐役にあたり、部隊に対する指揮権は持たない。しかし、軍事オンチばかりが就任する防衛大臣に代わり、事実上、陸幕長が陸上自衛隊の最高指揮官を務めてきたのが実情である。火箱氏は退任会見で図らずもその事実を明らかにした。同時に陸上総隊がなくても陸自が組織的に機能することを証明してみせたのである。それでも陸上総隊は発足したのである。
一方、海兵隊機能を持つのは陸上自衛隊に新編される水陸機動団である。長崎県佐世保市の相浦駐屯地に2連隊2100人規模で誕生した。
山崎幸二陸上幕僚長は今年2月22日の会見で「水陸機動団の新編は、わが国の厳しい安全保障環境、とりわけ南西防衛について喫緊の課題と思っている。離島の防衛を主体とする部隊の新編により、わが国の主として島しょ防衛に対する実効性ある抑止、また対処能力が向上するものと思う」と述べた。
これまでの陸上自衛隊による島しょ防衛は、情勢が緊迫した段階で部隊を離島に事前展開し、抑止力を高めて侵攻そのものを防止する作戦だった。それでも敵に占領された場合、取り戻すとなれば、全国に散らばった部隊を動員するほかなかった。
水陸機動団は陸上自衛隊に欠落していた奪還機能を持ち、敵前上陸する専門部隊である。海兵隊の中で最強といわれる米海兵隊を見習って装備品も垂直離着陸輸送機「オスプレイ」、水陸両用車「AAV7」とまるごと米海兵隊を真似ている。米海兵隊のような「殴り込み部隊」であり、もちろん先制攻撃に活用できる。
敵基地攻撃能力の実現へ
著者情報
防衛ジャーナリスト
半田滋
はんだ しげる
1955年、宇都宮市生まれ。元東京新聞論説兼編集委員。獨協大学非常勤講師。法政大学兼任講師。2007年、東京新聞・中日新聞連載の「新防人考」で第13回平和・協同ジャーナリスト基金賞(大賞)を受賞。著書に『安保法制下で進む! 先制攻撃できる自衛隊―新防衛大綱・中期防がもたらすもの』(あけび書房)、『検証 自衛隊・南スーダンPKO-融解するシビリアン・コントロール』(岩波書店)、『零戦パイロットからの遺言-原田要が空から見た戦争』(講談社)、『日本は戦争をするのか-集団的自衛権と自衛隊』(岩波新書)、『僕たちの国の自衛隊に21の質問」(講談社)、『「戦地」派遣 変わる自衛隊』(岩波新書)=09年度日本ジャーナリスト会議(JCJ)賞受賞、『自衛隊vs.北朝鮮』(新潮新書)などがある。