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国民投票法で何が決まったのか(後編)

憲法改正手続きに疑問あり!

伊藤真(弁護士/伊藤塾塾長/法学館憲法研究所所長)

 2007年5月14日、参議院本会議で、憲法改正のための手続きを定めた「国民投票法」が可決成立しました。前編に引き続き、この法律の内容を検証していきましょう。

投票年齢は?

 18歳になったら憲法改正の国民投票ができるようになります。これに伴って、通常の選挙権が認められる年齢や、民法・少年法などの成年の概念も変わることになります。ただし、飲酒、喫煙についてはどうなるかまだわかりません。

 国民投票が認められる年齢が引き下げられ、それだけ多くの国民がこの投票に参加できるようになったことは歓迎すべきことです。ですが、投票権を与えられた人たちがどれだけ真剣に憲法改正問題を考えられるかによって、この国のあり方、私たちの生活がまったく変わってしまいます。

国会発議から国民投票までの期間は?

 憲法改正の発議から国民投票までの期間を「60日以後180日以内」としています。これでは短すぎるという意見が、学者や弁護士会からでています。憲法改正案について、国民が十分に理解し、そのような内容の憲法になったら自分の生活はどうなるのかをしっかりと考え、自分のこととして改憲を考えるだけの時間的な猶予が必要です。

 また、一時の感情的な盛り上がりではなく、あくまでも冷静に知性によって判断するためには、覚めた眼で改正案を見る必要があります。たとえば、「北朝鮮がミサイル実験をした」という報道が連日なされ、近隣諸国との緊張関係が高まっている中で、改憲がなされたらどうでしょう。また、改憲を進める人たちの側からのテレビコマーシャルが一日中流される、そうした雰囲気の中で国民投票が行われるのであれば、どうでしょうか。

 単なるムードに流されて投票が行われたら、大変なことになります。私は最低でも1年以上の熟慮期間が必要だと考えています。ですが、法律が成立した今、大切なことは私たちができるだけ冷静に判断する理性を持つことだと思います。

改憲賛成、反対を主張する運動は自由か

 この期間の中で、賛成、反対を主張する国民投票運動が行われるのですが、テレビのCMを使ったキャンペーンは、投票日の14日前までは制限されていますが、それ以前は自由になっています。自由にCMを打てるというのは一見、よさそうに見えますが、この点は大問題で、やはり、学者や弁護士会も反対しています。

 というのは、テレビCMや新聞広告は当然お金がかかります。15秒のスポットCM100本を全国で流すとなると1億円以上、同様に、新聞の全国紙5紙に全面広告をうつとなると1億円以上かかります。これでは、資金力のある側の意見が圧倒的に増えてしまうことが予想されます。

 とくに自由民主党の改憲案では、憲法9条を変えて軍隊を持つ「普通の国」になるようにしていますから、改憲されれば軍需産業への発注が増え、武器輸出ができるようになります。そこで財界が憲法9条の改憲を全面的にバックアップしています。当然、改憲キャンペーンへ提供される資金は膨大になるでしょう。また、連日流される改憲CMによるマインドコントロールの影響も、心配されています。これでは公平な国民投票運動とはいえません。

学校の先生は何も言えない?

 この法案では、公務員や教育者の国民投票運動が規制されます。国会が発議した憲法改正案について意見を言ったり、投票を働きかける国民投票運動は、あらゆる立場の人たちが自由に行うことができてはじめて、民主的な手続きで改正がなされたことになります。一部の人たちの自由な発言を封じて行われた国民投票はとうてい正当なものとは言えません。

 ところが、与党案では、公務員および教育者が、その地位を利用して国民投票運動をすることができないと規制しています。「その地位にあるために特に国民投票運動を効果的に行い得る影響力又は便益を利用して」という、あいまいで抽象的な言葉で規制することは大問題です。たとえ罰則がなかったとしても、懲戒処分の対象にはなりますから、公務員の皆さんや小学校の先生から大学教授まで、逮捕されてはたまらないということから、発言が委縮してしまう危険性があります。

 全国で約370万人もいると言われる公務員と、約130万人もいる教育者の皆さんが反対運動を展開したら改憲派にとって脅威だから、ということで規制することになったのですが、意見を自由に言えない国家に未来はあるのでしょうか。私には、まるでどこかの独裁国家のように思えます。

最低投票率の定めはあるの?

 国民投票の際の最低投票率の定めがありません。この点についても、学者や弁護士会は、最低投票率の規定を置くべきだと強く主張しています。というのは、例えば投票率が20%だった場合、その過半数、つまり有権者の1割の賛成で、憲法改正が成立してしまうことになるからです。これでは国民の意思で憲法改正を決めたとはとても言えないのではないでしょうか。あまりにも低い投票率では改憲できない、という歯止めを設けるべきです。

 他にもいろいろと問題点があります。ですから、もっと十分な議論をして、たとえ憲法改正に反対の人たちでも納得できる手続き法を作る必要があったのです。憲法改正そのものを急ぐからといって、そのための手続き法を十分な議論もなしに作ってしまうのでは、とても民主主義国家とは言えないと思いますが、皆さんはどう考えますか。

著者情報

弁護士/伊藤塾塾長/法学館憲法研究所所長

伊藤真

いとう まこと

1958年生まれ。東京大学法学部卒。在学中に司法試験に合格し、司法試験受験指導を始める。現在、「伊藤塾」塾長として法律資格試験の受験指導を行う。著書に『中高生のための憲法教室』(2009年、岩波ジュニア新書)、『憲法問題』(13年、PHP新書)、『現代語訳 日本国憲法』(14年、ちくま新書)、『増補版 赤ペンチェック 自民党憲法改正草案』(16年、大月書店)、『私たちは戦争を許さない 安保法制の憲法違反を訴える』(共著、17年、岩波書店)など多数。

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