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「偏差値」から読み解く「大阪維新の会」の財政運営 分配システムの破壊からベーシックインカムへ

吉弘憲介(桃山学院大学経済学部教授)

コロナ禍の繁華街「新世界」と通天閣(大阪市浪速区)

 

総合的な目で大阪維新の会を分析する必要性

 2021年10月31日に行われた第49回衆議院議員選挙において、大阪維新の会を母体とする日本維新の会は、大阪府内において圧倒的な勝利を収め、前国会から4倍近い議席増を果たした。メディアは維新の躍進を報じ、一部の論者は大阪における維新支持の構図が極めて盤石であるとの分析を報告している。論評のいくつかは、大阪府内で強化される「維新の会」の支持が、メディア支配やポピュリズム的傾向によるものではなく、大阪維新の会の政策運営に対する有権者の合理的な評価の結果であるとしている。例えば、関西学院大学教授の善教将大(ぜんきょう・まさひろ)氏は、維新の会の衆議院選挙における躍進の背景として、大阪府と市の行政機能の調整に際してリーダーシップを発揮した大阪維新の会に対する大阪府民の評価が広がったのではないかと分析を加えている。
 では、その政策運営の成果とはいかなるものであったのか。

 大阪維新の会が自ら主張する政策運営の成果は、「大阪城公園や天王寺公園における賑わいの創出」や「地下鉄のトイレの整備」といった、個別事例が多い。一方、大阪維新の会の政策運営に関する批判も、コロナによる死者数の多さを批判する際に引き合いに出される“維新政権”による大阪市立住吉市民病院の廃止や、大阪城公園や天王寺公園が営利企業による管理運営に代わり公園内に有料区画が増加するといった、いわゆる「ジェントリフィケーション(都市の富裕化、高級化)」による分断の助長など、いずれも個別政策が取り上げられがちである。

 つまり、大阪維新の会の政策に対する評価も批判も、大阪府や大阪市、あるいは他の自治体の総合的な政策運営をもとに展開されていない。これは、国語や数学など個別の教科の点数だけで、学生の学力全体を説明しようとするようなものに等しい。そのような評価も批判も不十分なものと言わざるをえないだろう。

 大阪維新の会が結党から10年の間に、どのような政策運営を行ったのかを総合的に評価している研究は少ない。本稿では、大阪維新の会による政策運営の実態を他都市に対する各種の「偏差値」を用いて明らかにすることで、総合的な評価を行うことにする。この結果、大阪維新の会の政策運営が、果たして「及第点」を修めているかについて考えてみたい。

 

大阪維新の会による大阪市財政運営をめぐる「4つのファクト(事実)」

 大阪維新の会は、2010年に大阪市議会・堺市議会、大阪府議会の一部議員たちによって立ち上げられた。2011年11月の選挙で大阪市長となった橋下徹氏は、「政治とは不連続への挑戦」と銘打って、それまでの大阪市の政策運営を次の3点から批判し、その「改革」を表明した。

  1. 1)大阪市の「膨らみ続ける」地方債の問題
    2)非効率性を生み出す公務員組織
    3)地域・公務員・政党が財団法人などを介して作り出した利権構造(「大阪市役所一家」)への批判

 このうち、「大阪市役所一家」という表現は、読者の中にはやや馴染みがない方もおられるかもしれない。大阪維新の会の代表である吉村大阪府知事、松井大阪市長、大阪府市特別顧問の上山信一慶應義塾大学教授による共著『大阪から日本は変わる』(朝日新書、2020年)によれば「大阪市役所一家」とは、保守陣営、(公務員)労働組合、地元団体(地域振興会:いわゆる自治会や町内会の大阪市における呼び名)の3つの勢力が市役所職員と結びついて改革を阻む圧力団体であるとされる。さらに、2012年の市議会では大阪維新の会の市議会議員から、同種の言葉として「中之島一家」という表現が使われている。この中では、公務員組織の既得権益の1つとして、市役所職員の天下り先とされる市の外郭団体にも批判の矛先が向けられている。

 上記に対して、大阪市の財政はどのように変化したのか。ここでは「4つのファクト(事実)」を論点に、大阪維新の会による財政運営の実像を明らかにしたい。

4つのファクト(事実)
1)相対的に大きい一人あたり歳出規模
2)膨らむ公債費に制約された財政と債務残高の抑制の成功
3)人件費の縮小と公務員数の削減
4)委託料の落札事業者における営利企業の増加

 

【ファクト1】相対的に大きい一人あたり歳出規模

 最初に大阪市の歳出総額の規模をみていく。筆者は、全国20の政令市を基準にして、大阪市の住民一人あたり歳出規模の偏差値を作成した。偏差値が50であれば、一人あたり歳出の規模が全国20政令市の平均値と等しくなる。平均よりも歳出規模が大きければ偏差値は高くなり、小さければ低くなる。参考として政令市のうち、人口規模が大阪市と同程度の横浜市と名古屋市の偏差値も合わせて図示した。

 (図表は筆者作成、以下同)

 上図は各市の一人あたり歳出総額の偏差値の推移を示している。
 この図から、次の2つのことがわかる。1つ目は大阪市の一人あたりの歳出水準は、2006年から2017年の間、一貫して他の政令市よりも非常に大きいということである。2つ目に橋下徹氏が市長選で当選し、大阪維新の会が市議会と行政府で多数派及び政権を取った2011年以降も歳出規模が一定維持されたということである。大阪維新の会の政治傾向は、行政組織の非効率性を攻撃し行政サービスを縮小する、いわゆる「新自由主義」的性格を持っていると考えられる。しかし、大阪維新の会による財政運営では、大阪市の歳出規模はそれ以前の規模とほぼ同じで、やはり「大きい」ままであったということになる。
 これが大阪維新の会の財政運営の実態を表す「第1のファクト(事実)」である。
 その理由は、大きくは2つに分けられる。1つは、大阪市における生活保護を含む扶助費が下がらなかったこと、もう1つは、以下に示すように借金の返済である公債費の高止まりに起因している。

 

【ファクト2】膨らむ公債費に制約された財政と債務残高の抑制の成功

 続いて、この公債費(市の借金の返済金)の推移をみていこう。
 下図から明らかなように、大阪市の一人あたり公債費の偏差値は、2006年以降、毎年上昇しており、2013年度以降は偏差値80と極めて高い水準で推移している。

 借金の返済費用にあたる公債費は、それ以前の市の借金(地方債)の大きさに影響を受ける。実際、2001年から2006年にかけて、大阪市の地方債残高は人口が同規模の横浜市や名古屋市よりも高い水準であった。
 また、下図のように2006年を境に、地方債残高は徐々に低下していった。これは、2006年以降の一人あたり公債費の偏差値が、右肩上がりであることとも整合的である。借金の返済の規模が他都市と比較しても大きくなる中、大阪維新の会による市政が始まる2012年以降、公債費の偏差値は80で高止まりを続ける。
 その結果、他の都市と比較して、特に一般単独事業債を中心として地方債残高は小さくなっていった。2006年の段階では、一時3兆円に届きかけた地方債残高は、2017年には2兆円付近まで下がっていることが確認できる。

 ここから、何が明らかになったと言えるだろうか。
 まず、2012年以降の大阪維新の会による財政運営において、維新が政権を取る以前に累積した債務返済が、同政権の財政運営を制約していたことが指摘できる。また、返済が増加する一方、新たな借金を抑制し市の借金総額を減らしコントロールした点は、「身の丈」の財政運営を標榜する同党の主張と整合性があり、実際これに成功したと言えるだろう。これが、「第2のファクト」である。

 

【ファクト3】人件費の縮小と公務員数の削減

 偏差値が上昇したものとして、公債費を挙げたが、一方で低下したのが「人件費」である。人件費は公務員をはじめ、自治体財政に関係する職員や議員の給料・退職金支出によって構成されている。2011年までの大阪市の人件費の水準は、偏差値75付近であり、他の政令市の中でも極めて高かったことが指摘できる。
 これが、2011年以降、急落していく。
 その結果、2017年には住民一人あたり人件費は名古屋市と同水準となっている。図に示された時期において、名古屋市や横浜市など他の都市部では偏差値が安定して推移していることから、大阪市における変化が独自のものであることが指摘できよう。また、その時期が大阪維新の会の政権運営時期と重なることは言うまでもない。

住民一人あたり人件費

著者情報

桃山学院大学経済学部教授

吉弘憲介

よしひろ けんすけ

1980年生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。専門は、財政学、租税政策。下関市立大学准教授、桃山学院大学准教授を経て、2021年より現職。

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