カジノが日本を食いつぶす!(前編)~誘致合戦に横浜が参戦、IRは本当に「地域経済に資する」のか
鳥畑与一(静岡大学人文社会科学部経済学科教授)
(構成・文/川喜田研)

2019年8月、横浜市がそれまでの方針をひるがえし、「カジノを含む統合型リゾート(IR)」を誘致すると正式に表明した。横浜市会では2億6000万円の関連予算が可決され、市は11月1日に「IR推進室」を開設。この動きを後押ししようと、横浜商工会議所など地元の9つの経済団体も新たに「IR横浜推進協議会」を設立し「IRの誘致が地元経済の活性化に繋がる」と期待を寄せている。
だが、IRの誘致をめぐっては、市民の間にギャンブル依存症の増加や、治安の悪化を懸念する声が根強くある。11月6日には誘致に反対してきた市民グループや議員などが、カジノ誘致の是非を問う市民投票の実施を求めて「カジノの是非を決める横浜市民の会」を設立した。
市がIRの建設候補地としている山下ふ頭に倉庫などを置く、港湾事業者の団体「横浜港運協会」も、ふ頭からの立ち退きに応じない姿勢を見せている。
18年7月、国会で統合型リゾート整備法(IR実施法)が成立してから1年余り。具体的なIR誘致計画を巡って横浜で市民を二分する議論が沸き起こる中、今後の論点となるであろうIRの実態と、その誘致による「地元経済の活性化」について、『カジノ幻想』(ベスト新書、2015年)などの著書があり、カジノの問題に詳しい、静岡大学人文社会科学部の鳥畑与一教授が検証する。
賭博は基本的に犯罪なのになぜ、カジノを含むIRは合法なのか?
日本ではそもそも、賭博(ギャンブル)が法律で禁じられている。刑法には賭博罪や賭博場開張図利罪・博徒結合図利罪などがあり、ギャンブルは基本的に「犯罪」である。しかし、それではなぜ、日本には競馬や競輪、競艇、オートレースなどの「公営ギャンブル」(公営競技)や「宝くじ」が合法的に存在するのだろうか。それは、ふたつの「建前」があるからだ。
ひとつは、これらのギャンブルの実質的な主催者と運営者が、あくまで地方自治体等の「公」であり、「公設公営」という形を取っているという点(ただし、事業を委託するという形で、民間事業者の一部参入が認められており、実質的には「公設民営」といえる)。もうひとつが、その収益が社会に還元されており、「公益性」があるという点である。
この2点を満たすことが従来の日本における賭博の許容ラインであり、例外的な合法性の論拠となってきた。ところが、今回の「カジノを含む統合型リゾート」の構想では、賭博の主体が民間の「カジノ事業者」となる。従来の「公設公営」という基準を、「民設民営」にまで下げることを意味していると言っていいだろう。
ではなぜ、今回、民設民営の「カジノを含むIR」が合法化されたのだろうか? 実を言えば「カジノ解禁」に関しては、今から約20年前の1999年にも当時、東京都知事だった石原慎太郎氏の「お台場カジノ構想」をきっかけに合法化の動きがあったのだが、そのときは「公益性が弱い」という理由で実現には至らなかったという経緯がある。
それが一転して、「IRならOK」となったのは「IRはカジノ以外の施設も含めた複合的なリゾートであり、カジノはその一部でしかない」という理屈と、「カジノを含めた大規模な統合型リゾートの誘致は、広く地域経済に資するので公益性がある」という「IRを作りたい側の論理」があったからだ。だが「IR」におけるカジノは本当に「その一部」でしかないのだろうか? また、カジノを含むIRの誘致は本当に地域経済に資するのだろうか?
IR(統合型リゾート)とは何か? 収益構造の主体はあくまでもカジノ
まず、IRとは何か、という点について考えてみたい。IR実施法に記された「IR/カジノを含む統合型リゾート(特定複合観光施設)」とは、カジノに加え、国際会議場、見本市会場などのMICE施設、劇場、シネコン、テーマパーク、スポーツ施設といったレクリエーション施設、ショッピングモール、ホテルといった商業・宿泊施設が一体となった複合施設を指す。米国のラスベガスなどがその典型だが、ギャンブルが目的の客だけでなく、家族連れなど老若男女が楽しめる複合エンターテインメント施設の一部としてカジノが存在する、というのがIR誘致に積極的な「カジノ推進派」の論理である。
だが、経済的な側面、すなわちIR全体の利益構造に目を向けると、「カジノはIRの一部に過ぎない」という主張とは大きく異なる実態が浮かび上がる。例えば、日本がIRのモデルのひとつとしているシンガポールの場合、確かに、施設面積で見ればIR全体におけるカジノ施設の比率は3%以下であり、「IR実施法」でも「カジノ施設はIR施設全体の床面積の3%以内」とする方針が示されおり、「カジノはIRの一部にすぎない」ようにも見える。しかし、その収益を見ると、シンガポールの場合、カジノがIR全体の利益の実に80%を稼ぎ出しているのだ。
なぜかといえば、IR全体で高水準の投資収益率を達成するにはカジノで荒稼ぎするしかないからである。「元祖IR」ともいうべきラスベガスの場合、IR全体の収益に対するカジノの比率は50%以下に抑えられており、その結果、投資収益率は数%という低水準となってしまっている。こうした実態を考えれば、IRが「カジノの生み出す高収益に依存したビジネスモデル」であることは誰の目にも明らかだろう。
ちなみに、「IR実施法」に関する議論では「カジノの収益の比率を全体の5割以内に収める」という案があったが、結局、これも採用されなかった。このように、収益構造で見れば「カジノのためにIRがある」というのが実情であり、「カジノはIRの一部でしかない」と言うのはどう考えても無理があると言わざるを得ない。
自治体が誘致するIR型カジノの莫大な利益はどこに行くのか?
次に、IR全体の50~80%超を稼ぎ出す、莫大なカジノの収益が「どこにいくのか?」についても見てみよう。
カジノが「儲かる商売」であることは間違いない。一般的にカジノの利益率(EBITA)は40%程度とかなり高く、アメリカの大手カジノ事業者、ラスベガスサンズの場合、利益の約20%を株主への配当等に回していて、その額は7年半で250億ドル(日本円で約2兆7500億円)にも上る。
しかも、ラスベガスサンズの場合、実質的な「家族経営」(株保有率は経営者のアドルソン氏本人が10%、妻49%)であるため、主な配当先はアドルソン氏と妻、そして、アドルソンファミリーの信託投資基金なので、莫大な利益の大半はアドルソン家の懐に流れ込む仕組みになっているのである。
ラスベガスサンズは横浜のIR誘致計画に強い興味を示していると言われるが、仮に横浜がIRを建設し、ラスベガスサンズが事業者に選ばれた場合、「自治体が誘致した施設」が生み出す莫大な利益の多くが国外の、それもアドルソン家という「個人の利益」となる可能性があるということになる。
一方、同じアメリカの大手カジノ事業者でもMGMリゾーツやシーザーズなどは「家族経営」や「個人経営」ではないが、こちらも莫大な利益が「配当」という形を通じて投資信託、銀行、個人投資家など「ギャンブルという確実にもうかるビジネス」に投資した一部の人たちの利益になるという基本的な構造は同じである。この「利益」とはすなわち、「ギャンブルで負けた誰かのお金」であることを考えれば、そこに何らかの「公益性」を見出すことは不可能だ。
「コンプ」によるIR施設への利益補填が地元経済の競争力を奪う
それでは、より広い意味での「経済波及効果」についてはどうだろう。「カジノ推進派」が主張する「地元経済への貢献」には、IRの誘致によって、観光客が増えたり、新たな雇用が生まれたりすることが期待されることに加え、カジノやIRの建設と運営がもたらす、さまざまな関連産業への需要などを総合的に考えれば「IR誘致による地元経済へのプラスは大きいのだ」と訴える。だが、本当にそうだろうか。地元経済への影響という意味では、IRの持つ「副作用」についてもきちんと検証する必要があるだろう。
副作用の例として、IR型カジノの特徴のひとつである「コンプ・サービス」について触れておきたい。これは、客がギャンブルで賭けた金の一定比率をポイントとして還元し、客はそのポイントでIR施設内の宿泊、飲食、娯楽、ショッピング等を無料、または割引で利用できるという、一種の「ポイント還元サービス」のことだ。これは現代のIRには欠かせないシステムで、例えば米国のアトランティックシティの場合、カジノの収益のおよそ3分の1がコンプ・サービスに費やされている。
既に述べたように、IR型カジノのビジネスモデルは「IR施設全体で集客し、その利益をカジノが刈り取る」という点にあり、IRに含まれるカジノ以外の様々な施設は「高収益のギャンブル」で稼ぐための客集めの手段でしかない。コンプ・サービスは、いわば、カジノの客集めのための「撒き餌」であると同時に、ギャンブルに負けた客にもポイント還元による「メリット」を感じさせることで、客により多くの「賭け金」を使わせるための巧妙な仕組みでもある。
著者情報
静岡大学人文社会科学部経済学科教授
鳥畑与一
とりはた よいち
1958年、石川県生まれ。大阪市立大学大学院経営学研究科後期博士課程修了。専門は国際金融論。著書に『略奪的金融の暴走』(2009年、学習の友社)、『カジノ幻想』(15年、ベスト新書)などがある。