もう原発の時代じゃないという世界の潮流
満田夏花(国際環境NGO FoE Japan理事、事務局長。原子力市民委員会座長代理)
東京電力福島第一原子力発電所事故以降、世界中で脱原発の潮流が生じている。
東電福島第一原発事故の甚大な被害が世界に伝えられ、原発事故の危険性に対して、各国の脱原発を求める世論が高まった。経済的にも、工期の延長や安全対策コストの追加による建設コストの増大、事故時の莫大な費用や核廃棄物の処理費用などを考えれば、原発が決して「安価な」電源ではないことが明らかになってきた。核廃棄物の処分についても、解決のめどは立っていない。
本稿では、原発導入を取り止めたベトナム、脱原発方針に舵を切った台湾、韓国、ドイツの状況を紹介し、福島第一原発事故後の日本の原発政策と原発輸出について概観する。
ベトナムは初の原発建設計画を白紙撤回
2016年11月、ベトナム国会は、中南部で予定されていたニントゥアン省原発建設計画の白紙撤回を求める決議案を可決した。同省の原発事業のうち、第一原発(2基)はロシアが、第二原発(2基)は日本が受注を予定していた。
ベトナムが今回撤回に踏み切った主要な理由は、経済的に割に合わないということだ。福島第一原発事故を経て、原発建設費用は当初見積もられていた約1兆円から約2.7兆円に上昇し、原発の発電単価も当初見込みから1.6倍ほど上昇した。
ベトナム国内の電力需要の下方修正もあげられる。改訂第7次エネルギー計画において2030年の総発電量目標が18%下方修正された。
ニントゥアン第二原発建設にあたっては、日本から、「低金利かつ優遇的な融資」が行われることが合意されていた。この融資は、国際協力銀行(JBIC)など政府系融資機関が担うことになると考えられるが、これ以上、日本からの債務を増やすことができないというベトナム側の判断がある。

「これは“勇気ある撤退”だ」と科学技術環境委員会副委員長のレ・ホン・ティン議員はVNEXPRESS紙(2016年11月10日)のインタビューで述べている。
「電力需要の伸びは、原発計画が提案されていた当時の見込みより低下している。節電技術が進み、LNG(液化天然ガス)や再生可能エネルギーなどが競争力をもち始めている。今後国内需要は十分賄える。これ以上計画を進め、さらなる損失を被らないうちに早期に計画を中止する必要がある。」
ベトナムは最大の援助提供国である日本への配慮から表向きの理由とはしていないが、福島第一原発事故後、原発の安全性に関する信頼が揺らいだことは間違いがない。国内の有識者や共産党OBからも慎重な発言が相次いだという。チュオン・タン・サン前国家主席は共同通信のインタビューに答え、「住民の心配が大きくなった」とも指摘している(2017年12月2日「住民懸念でベトナム原発建設撤回」)。
台湾は2025年までの脱原発化を決定
2017年1月、台湾立法院で電気事業法の改正案が可決され、現在6基ある原発の寿命延長を行わないこと、40年の運転期間を終えたのち順次停止をすること、すなわち、2025年までに脱原発を実現することが同法に明記された。さらに、再生エネルギー分野での電力自由化を進めて民間の参入を促し、再生エネルギーの比率を現在の4%から2025年には20%に高めることを目指すとした。
台湾では、1987年の戒厳令の解除以降、脱原発を求める市民たちの運動が盛り上がった。特に「日の丸原発」と言われた第四原発(2基)を巡っては、大規模な反対運動が行われてきた。

2011年の福島第一原発事故以降、大規模デモや世論の高まりを受け、2014年に原発を推進してきた国民党の馬英九(マー・インチウ)政権下で、第四原発の計画「凍結」が決まった。台湾が脱原発に向かった第一の理由としては、福島第一原発事故の衝撃が強い。第一原発、第二原発とも台北から30キロ圏内という立地で、万が一事故が起こったときは数百万人が影響を受ける。その代償はあまりに大きい。さらに、既存の原発が寿命を迎えることに加えて、めどの立たない核廃棄物の処理問題が挙げられる。
韓国は文大統領が脱原発を宣言するも、新古里5.6号機は建設続行へ
韓国には稼働中の原発が24基、建設中のものが5基あり、全発電量の約30%を原発が占める。こんな原発大国韓国において、文在寅(ムン・ジェイン)大統領は選挙公約として、脱原発を進めるため、(1)建設中の原発の建設中断、(2)計画中の原発の白紙撤回、(3)設計寿命の延長はしない、(4)脱原発ロードマップを作成する、などの項目を掲げた。これに従えば、現在、蔚山(ウルサン)市で建設中の新古里5号機、6号機は建設中断となるはずであったが、後に述べる経緯によって続行となった。また、2017年12月14日、今後15年間のエネルギー需給見通しと設備計画を盛り込んだ第8次電力需給基本計画案が明らかになった。それによれば、現在24基ある原発を2030年までに18基に減らし、総発電量に占める原子力シェアを現在の約30%から、2030年までに23.9%まで削減することを目指す。

韓国、新古里5.6号機の建設現場
国民の圧倒的な支持で当選した文大統領は、2017年6月19日、寿命を迎えた古里1号機の停止式典で、脱原発宣言を行った。しかし建設中の新古里5、6号機については、「公論化プロセスにより、結論を出す」と公約よりも後退したものとなった。
新古里5、6号機は、すでに建設が30%進んでおり、建設を中止する場合にはもっとも議論をよぶものであった。事実、地元の住民も、建設作業で雇用されていたり、補償金が支払われ、すでに移転していたりしており、今から中止することに関して抵抗が強かった。原発関連の業界からの強い圧力もある。文大統領は、あえて公約を後退させ、建設中止について自ら結論を出すのではなく、「公論化プロセス」に託したのではないかとの見方もある。
公論化プロセスは、2017年7月から3カ月をかけて行われた。公論化委員会が設置され、建設の賛否双方の意見を資料集に記述。2万人の一次世論調査が行われ、回答者の中から、地域・性別・年齢などが考慮されて500人の市民参加団が選出された。このうち471人が、事前学習を行い、総合討論会に参加し、最終アンケート調査に回答した。
結果は、新古里5、6号機の建設中止が40.5%、建設再開が59.5%となった。これを受け、政府は新古里5、6号機の建設続行を決めた。設計寿命が60年もある原発の建設続行により、韓国が脱原発を達成する時期は大きく遠のいた。
しかし、同じアンケート調査の今後のエネルギー政策についての設問では、原発を縮小すべきという意見は53.2%を占め、拡大すべき9.7%、維持すべき35.5%を大きく上回った。
この結果、文大統領は、脱原子力関係の公約として掲げたその他の項目、「新規の原子力発電所建設計画の全面白紙化」と「月城(ウォルソン)1号機をできるだけ早期に閉鎖」は実行すると発言しており、さらに、寿命になる前でも電力需給に支障をきたさないことが判明すれば、政策的な閉鎖措置をとる根拠を設けるとしている(ハンギョレ紙インターネット版2017年7月22日「脱原発ロードマップに『月城1号機廃炉』盛り込まれる見込み」)。
ドイツはチェルノブイリ、福島第一原発事故で脱原発を決定
著者情報
国際環境NGO FoE Japan理事、事務局長。原子力市民委員会座長代理
満田夏花
みつた かんな
FoE Japanにて脱原発と福島支援、開発金融と環境を担当。一般財団法人地球・人間環境フォーラム主任研究員を経て2009年よりFoE Japanに。3.11東日本大震災以降は、脱原発・持続可能なエネルギー政策の実現に向けた各種活動に従事。http://www.foejapan.org/(外部サイトに接続します)