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「餃子の王将」になぜ行列ができるのか

低価格業態の取るべき戦略とは

田中洋(中央大学ビジネススクール(大学院戦略経営研究科)教授)

 不況の影響もあり、外食産業が伸び悩む中、群を抜く好業績で注目を集めている中華チェーンの雄「餃子の王将」。王将の原動力となっている低価格戦略と、その課題とは。

餃子の王将とは

 「餃子の王将」(株式会社王将フードサービス)が好調である。「餃子の王将」は北海道・東北地方にまだ出店していないので、その存在を知らない読者もいることと思われる。ギョーザを中心とした中華系低価格レストランのブランドである。京都が本社で、全国に約500店を出店している。ギョーザ一人前(6個)が東日本で231円、西日本では210円で提供されており、最低ワンコイン(500円)でも空腹を満たすことができる。
 平成20年度(平成21年3月期決算)では売上高約550億円、前年比10.5%増、さらに2009年7月31日に発表された平成21年度第1四半期の売り上げでも対前年比22.8%アップと引き続きの好調ぶりを示している。外食産業全体がマイナス成長を記録しているのに対比して、大変順調な成績といわねばならない

「餃子の王将」はなぜ成功したのか

 マスコミでもよく取り上げられる「餃子の王将」はなぜ好調なのだろうか。簡単に振り返ってみよう。
 おそらく最大の成功要因はギョーザや中華料理という日本人になじみのある食のカテゴリーで、低価格で良質な食事を提供できる仕組みを開発したことにある。ギョーザは不思議な魅力をもった食べ物で、以前中国製の冷凍ギョーザが薬物混入事件などで問題になったころ、逆にギョーザが食べたくなったと思った経験のある方も少なくないだろう。ギョーザは日本人の食生活に深く根ざしている。そのうえ、この分野ではあまり強力な競合が存在していなかった。つまり競争上優位なポジションを先に押さえたということになる。
 むろんそれ以外にも、2000年ごろにこの企業が経験した危機をバネにして、現場の社員づくり、とくに強力な店長育成を心がけてきたそのマネジメント手法も注目される。しかしここではこれ以上成功要因には立ち入らないで、基本戦略となっている低価格戦略について見ていこう。

低価格マーケティングの課題

 こうした低価格業態のマーケティング戦略はどのようにあるべきだろうか。私の見るところ、低価格業態企業には次のような特徴と課題がある。
 ひとつは高価格品と違って限定されたターゲットではなく、低価格に魅力を感じる幅広い消費者グループがターゲットになりうることだ。こうしたターゲティングは簡単そうに見えるが、実際にはそうではない。
 というのはこうした低価格だけに魅力を感じる「チェリーピッカー」(安物ばかりを漁る消費者)と呼ばれる消費者グループは、別の、より低価格の業態が出現するとそちらに容易にシフトしてしまうからだ。このために、低価格戦略には常に不安定さがつきまとう。低価格業態の長寿企業というものを想像できるだろうか?あるいは、80年代や90年代に話題になった安売り専門流通業がその後どのような運命をたどったかを考えてもよいと思う。
 一方、高価格帯ブランドにロイヤル(忠実)な消費者グループは、別のブランドを買うリスクに敏感なためにすぐにはブランドスイッチしようとしない。ルイ・ヴィトン愛好者たちやハーゲンダッツのファンたちはこうしたリスク回避の購買行動を取ることが多い。
 したがって低価格を志向する業態を持続させようと思えば、低価格以外の属性で顧客ロイヤルティーを獲得する方策が必要となる。例えば、ユニクロは低価格でありながら画期的な機能をもった「ヒートテック」などの商品を開発して、ユニクロで買い物することの消費者価値をアップさせている。「餃子の王将」も現在のところ基本メニュー数を絞ることによって成功しているが、ユニクロにおけるヒートテックのような、革新的なメニューの導入が今後も欠かせないだろう。

景気回復時に取るべき戦略

 低価格業態の戦略上のチャレンジはもうひとつある。それは今後景気が回復したときのあり方である。流通業で唱えられた「小売りの輪」という理論がある。この理論によれば、既存の低価格業態は、より新しい低価格業態が競争相手として登場するとき、収益を上げる必要から、高価格・高マージンの業態移行を志向するというものだ。
 例えば、かつて低価格業態として出発したGMS(全国総合スーパーチェーン)は、アパレルや食品などのディスカウンターの台頭によって低価格の主導権を奪われるということがあった。80年代に低価格スーパーとして確立したダイエー中内功氏は、より高価格で高マージンの業態であるデパートの高島屋の株式を買収して提携を試みた。しかしその意図は達成されなかった。つまり、こうした低価格から高付加価値業態に転換しようとする「小売の輪」戦略は必ずしもうまくいくとは限らないのだ。
 ユニクロの場合、自分自身でより低価格の業態、「g.u.(ジーユー)」を展開し、990円ジーンズなどを提供している。同時に、高価格ブランドである「セオリー」ブランドを買収している。おそらくユニクロは今後、複合的な価格帯カテゴリー業態を展開する企業へと変化するだろう。
 このように低価格業態では、長期的な成長を実現するためにはどのような複合的な業態であるべきかが問われる。「餃子の王将」が成功したのは、中華というカテゴリーに集中したためであるが、今後はこの成功を維持しつつ、どう次の業態をデザインするかが課題となるだろう。
 低価格戦略は長期的な持続力が問われる戦略である。我々は「餃子の王将」の成長戦略に今後とも注目していきたいと思う。

著者情報

中央大学ビジネススクール(大学院戦略経営研究科)教授

田中洋

たなか ひろし

1951年生まれ。慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程修了。(株)電通、法政大学経営学部教授、コロンビア大学研究員などを経て、2008年より現職。著書に『消費者行動論体系』(中央経済社)、『現代広告論』(共著、有斐閣)、『広告心理』(共著、電通)、『欲望解剖』(茂木健一郎との共著、幻冬舎文庫)、『Q&Aでわかるはじめてのマーケティング』(共著、日本経済新聞社)、『企業を高めるブランド戦略』(講談社現代新書)など。

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