「派遣切り」「非正規化」、人をモノ扱いするな
小林美希(労働経済ジャーナリスト)
連日のように伝えられる雇用情勢の悪化のニュース。「100年に1度」の経済危機にあっては仕方がないのか?自己責任なのか? 派遣切り、非正規化、名ばかり正社員の背景を探る。
悪化する雇用環境と「派遣切り」の背景
2008年秋に起こった「リーマン・ショック」から、雇用環境が急速に悪化している。その象徴となったのが、自動車メーカーや電機メーカーなど、製造現場の「派遣切り」だった。
製造業派遣の雇用調整には、不況による減産だけでなく、法的な問題も重なった。
労働者派遣法の改正で2004年3月に解禁された製造業への派遣は、当初1年が上限だった派遣期間が、07年3月に3年に延長された。延長を見越した各企業は、偽装請負が社会問題化していたこともあり、06年に一斉に「請負」から「派遣」に契約を切り替えていた。契約を「派遣」とすると、上限の3年を超える雇用には、企業に「直接雇用の申し込み義務」が生じる。そのため、06年に契約を切り替えた企業は、契約の終了か直接雇用かの決断を迫られる「2009年問題」を抱えていたのである。その矢先に、景気が悪化。減産体制はより加速し、右へならえと“大量解雇”が起きた。
それに引きずられるように、「まだ市場性がある」とされていた事務系派遣にも、08年12月から09年3月にかけて、年末や年度末を区切りとした契約打ち切りがじわじわと起こり始めた。不況が追い打ちをかけ、失業しないまでも正社員の非正規化や、契約社員の派遣化やアルバイト・パート化など、より条件が切り下がっている。
厚生労働省による09年2月の一般職業紹介状況をみると、有効求人倍率(季節調整値)は0.59倍となり、前月を0.08ポイント下回った。このうち、正社員有効求人倍率はわずか0.37倍(前年同月比0.26ポイント減)。2月の新規求人は前年同月と比較すると34.8%減となった。
都道府県別の有効求人倍率(季節調整値)をみると、最も高いのが東京都の0.91倍、最も低いのが青森県の0.28倍。次いで、沖縄県が0.31倍と地方は深刻な状況で、産業の空洞化の起こっている地域や大企業の下請けに頼る地域では、雇用情勢は壊滅状態となっており、まさに「仕事がない」状況だ。
内閣府「国民生活白書」によれば、若年層(15~34歳)の非正社員は、1990年に183万人(同世代の10.4%)だったものが、2001年には417万人(同21.2%)へと増加。総務省「労働力調査」からは、08年には448万人(同26.8%)と非正社員が増え続けていることが分かる。
一方で、若年層の人口そのものが減っており、2000年で3488万人だったものが08年には3007万人に落ち込む中で、非正社員率が上昇しており、安定した職に就けない若者の増加ぶりが分かる
。
派遣は企業にとって「麻薬」の味
2000年前後の約10年間は超就職氷河期。1991年度に81.3%だった大卒就職率が、2003年度の55.1%を底として2000~05年度には50%台と、2人に1人しか就職できていない状況だった(文部科学省「学校基本調査」)。
この時期に、非正社員として社会人のスタートを切ってしまった若者は、非正社員だった期間のスキルが認められにくいため、正社員になりたくても転職市場に乗れない者が少なくない。以前は、「選ばなければ仕事はある」と言われがちで、「希望と現実のミスマッチ」による離職や非正規化も少なくはなかっただろうが、もはやミスマッチではすまされない状況だ。
例えば派遣社員の場合、派遣料金(企業が派遣元に支払う料金)でみた時給がたとえ自社の正社員並みであっても、企業には社会保険、年金、退職金の負担がなく、トータルのコストがかからない。さらに、いざとなったら契約を更新せずに期間満了といって合法的にクビにできてしまうため、企業にとって使い勝手のよい存在となっている。
以前は、事務系派遣では「スペックが合わない」と、まるで試用期間のように派遣を導入していた企業もあり、派遣の普及とともに企業から人を雇用することに対する責任感が失われていった。労働界では「派遣は企業にとってまるで麻薬のようで、一度その味をしめてしまったらやめられない」とさえ言われている。
こうした非正社員だけでなく、正社員の労働条件も劣悪になっている。なかには、正社員として採用されたにもかかわらず、社会保険に未加入という例も珍しくない。過労死寸前の超・長時間労働を強いられたり、待遇が非正社員となんら変わらない「名ばかり正社員」が増加し、正社員が非正社員化しているのが現状だ。
現場を無視した雇用対策
雇用問題を巡っては、製造現場の「派遣切り」を受けて労働者派遣法の改正が議論されている。日雇い派遣や製造業派遣の禁止を求める声が大きいが、それらの規制を強化しても、いくらでも抜け穴はある。これを解決するには、非正社員全体を貫く法制度が必要で、「同一価値労働・同一賃金」の法整備もセットで実現しなければならない。
厚生労働省は、09年2月23日に有期労働契約研究会の初会合を開いた。パートや派遣など、期限を定めて働く有期労働者(非正社員)全体のルールづくりを目指し、10年夏をメドに報告書をまとめるという。しかし、請負労働は依然として蚊帳の外の状態だ。
一方、若年雇用対策は、04年からキャリアカウンセリングなどの事業が本格的に始まってはいるが、政府の目玉政策であったフリーター就労支援の「ジョブカフェ」では、多重委託構造によって、実質的に事業を請け負う民間企業の予算の使途を国がチェックしないため、リクルートがスタッフ1人の1日あたりの人件費として最大で12万円を計上するなど、税金の浪費が発覚した。さらに、進路決定者の実績についても、右肩上がりの数値を見せるために、パートやアルバイトなどの不安定雇用もカウントされていた。
ジョブカフェだけでなく、国が示す成功モデルを全国に適用させる手法が広がっているが、例えばニートを支援する「地域若者サポートステーション」の現場では、地方のNPO法人、地方議員、自治体職員から「国から事業が押し付けられるが、地域によって実情も違えば、ノウハウを持つ人材も限られ運営しきれない」と、困惑の声が聞こえる。
今こそ、産業と雇用全体を見たマッチングを図り、常に人手不足に悩む農林水産業や介護業界への就業を促進するよう政策的に誘導し、労働条件を引き上げる制度改革をするべきではないか。同じように人材不足に悩む中小企業は、自ら「いつもなら大企業に人材を奪われるが、今がチャンス」(地方中堅メーカー人事部)と人材の獲得に必死になっている。これらに若者が目を向けることができれば、雇用問題改善への第一歩となるのではないだろうか。
著者情報
労働経済ジャーナリスト
小林美希
こばやし みき
1975年生まれ。神戸大学法学部卒。株式新聞社、毎日新聞社「エコノミスト」編集部を経て、2007年に独立。フリージャーナリストとして、若者の雇用問題を中心に取材を重ねる。著書『ルポ 正社員になりたい―娘・息子の悲惨な職場』『ルポ“正社員”の若者たち―就職氷河期世代を追う』のほか、雑誌、ウェブサイトへの執筆多数。